アマゾンの価格戦略はミクロ経済学の実践 ⁉︎

履歴を収集するソフトのクッキーを削除すると、自分が買おうとした商品の価格が大幅に下がっていることに気づいた顧客がアマゾンを訴えた。
アマゾンが差別的価格を採用しているとして大騒動になった事件だ。

これに対し、ジェフ・ベゾスは、謝罪すると同時に、差別的価格は組織的なものではなく、市場の需要を把握する精度を高めるためにランダムに行っていたに過ぎないと主張した。苦しい言い訳に見えるベゾスのこの釈明は、ミクロ経済学的観点からすると実に当を得たものだ。

自社製品の需要曲線を把握するために、多くの企業は多大な費用と労量を費やしている。
なぜ、需要曲線の把握が企業にとって重要かは、それは以下の理由による。

まず、自社商品の需要の価格弾力性を知るとは、企業にとって極めて重要なことだ。
価格弾力性というのは、価格の変化と需要量の変化の関係を示すものだ。

例えば、価格が1割下がった場合に需要量が1割増えれば、価格弾力性は1となる(1割÷1割)。
価格が1割下がった時に需要量が2割増えれば価格弾力性は2となり、逆に、価格が2割下がっても需要量が1割しか増えなければ価格弾力性は0.5となる。

つまり、需要量が価格によって大きく左右される商品は価格弾力性が大きく、価格に左右されにくい商品は価格弾力性が小さい。

価格弾力性が小さい商品に関しては、企業は強気の価格設定ができる。
少々価格が上がっても需要量は大きく変化しないからだ。価格弾力性の低い商品の典型例として、米や野菜のような生活必需品があげられることが多い。

しかし、同じスマホでもiPhoneは他のスマホよりはるかに価格弾力性が低いだろう。
アップル信者が多いことや他のアップル製品との連携の利便性が原因だろうが、アップルが他のスマホメーカーよりも強気の価格設定が可能であることは、疑いのない事実だ。

このように、企業にとって自社製品の価格弾力性を知ることは商品の価格設定にとって極めて重要となる。

ミクロ経済学の大原則のひとつとして、「限界収入」と「限界費用」の交点が「利潤最大」というものがある。

「限界収入」とは、それまで何百個何千個販売してきたかは別として、「新たに追加1個」を販売したときに得られる収入を指す。数多く販売してくれば「追加1個」で得られる収入は次第に小さくなってくる。

それに対して、「限界費用」というのは「新たに追加1個」を販売するときに必要な費用を指す。
「追加1個」を販売する費用が1万円で、「追加1個」の販売で得られる収入が1万円であれば、その商品の価格を1万円に設定するのが「利潤最大」となる。

それ以上販売すると「限界費用」が「限界収入」を上回って利潤が下がるし、それよりも販売量を少なくすると「得べかりし」利潤を失うからだ。

費用の計算は比較的容易だが、「限界収入」の把握は困難だ。「限界収入」は需要曲線から導かれるので、この点でも企業にとって需要曲線の把握は極めて重要なマターとなる。アマゾンが、自身のサイトで特定の商品の需要曲線を把握しようとしたのであれば、極めて戦略的な試みだ。

しかし、一般消費者を欺瞞するような方法をとるのは感心しない。
だから、より「良心的に見える方法」、つまり時間帯や曜日によって価格を下げることによって、需要曲線を把握しているのだろう。

上がった利潤を安価販売につなげて消費者に還元すれば、消費者にとっても恩恵が大きい。
もちろん、同業他社にとってはたまらないだろうが…。

中学受験BIBLE 新版
荘司 雅彦
講談社
2006-08-08

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年3月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。