森友文書改竄事件で、佐川前理財局長の証人喚問が27日に決まったが、今の太田理財局長の答弁の域を出る証言は出ないだろう。嘘でも本当でも佐川氏が泥をかぶり、理財局の「一部職員」がすべてやったというのが、安倍政権と自民党のシナリオだ。これを物的証拠でくつがえすことはむずかしい。
野党は「忖度」がけしからんとか「政治家の介入」があったのではないかとかいう話ばかり追及しているが、そっちの方向では大した話は出てこないと思う。それより逆に、理財局長の答弁の通り政治家の介入も局長の命令もなしに理財局だけで改竄した(そういう慣例があった)とすると、そっちのほうが深刻な問題だ。
日本テレビの報道によると、去年2月以降、財務省は国土交通省大阪航空局に渡した決裁文書の改竄を、国交省に依頼したという。これと財務省の主張が事実とすれば、理財局は独自の判断で国交省に公文書偽造を依頼したことになる。「理財局の一部職員」が他部局にも相談しないで、他の役所に違法行為を頼めるものだろうか。
常識ではそんなことはありえないが、財務省は予算配分権を握る「役所の中の役所」なので、非公式に「黙っていてください」ぐらいはいったかもしれない。特に国交省の所管する公共事業は裁量的な財源なので、財務省に逆らうと意地悪される可能性がある。事実、国交省は今月5日まで、首相官邸には報告しなかった(ことになっている)。
逆に理財局の「一部職員」の立場から考えると、こんな犯罪が(国会や検察の窓口である)財務省の大臣官房に知られたら、ストップがかかるに決まっている。そうすると局長答弁が嘘だということになり、局長が責任を取らされるばかりでなく、理財局という組織が解体される可能性もある。
改竄は財務省の省益にはそぐわないが、理財局の局益には合致する。あちこち回るキャリアは省益を優先するだろうが、近畿財務局や理財局に一生いるノンキャリは局益を優先するだろう。もし局益が勝ったとすると、理財局が官房を欺く前代未聞の事態だ。常識では考えにくいが、今回の事件では非常識なことが多い。
よく日本の役所は「局あって省なし」だというが、これは日本型組織の権力分立の傾向をよく示している。片山杜秀氏も指摘するように、組織は平和が長く続くと意思決定がルーティン化し、権限は下部に委譲されてタコツボ化する。そういう権力分立を制度化したのが明治憲法だったが、戦後もその構造は受け継がれている。
だとすると「忖度を生む内閣人事局はけしからん」という野党の追及は逆で、局益が省益に優先し、省益が国益に優先する「国のかたち」に欠陥があるということになる。4月からのアゴラ読書塾では、そういう問題をみなさんとともに考えたい。