森友学園の事件は、安倍政権始まって以来の危機に発展したが、当事者の説明が食い違い、いまだに事実関係がはっきりしない。野党やマスコミは安倍首相への「忖度」が原因だと主張しているが、そんな心理的な問題は立証できない。
この問題を政局に結びつけて「安倍政権が国有地払い下げに介入した」というシナリオも根拠に乏しい。国有地の売却には疑問があるが、それは近畿財務局のローカルな問題に過ぎない。本筋は問題が国会で追及された後の、財務省の組織ぐるみの文書改竄だ。両者を混同したまま野党やマスコミが騒いでも、空振りに終わるだろう。
「中抜き」された財務相
財務省の調査によると、改竄が始まったのは昨年(2017年)2月下旬だが、それを麻生財務相が知ったのは今年3月11日だという。3月2日の朝日新聞の報道を受けて、5日には国土交通省が首相官邸と財務省に「国交省で保管している文書が書き換え前のものである可能性がある」と報告し、それは6日には安倍首相に伝えられたが、麻生氏には連絡がなかったのだ。
ここに今回の事件の特異性があらわれている。常識的な理解では、財務省の官僚は財務相の指揮下にあるのだから、情報は「国交省 → 財務省 → 財務相 → 首相官邸」の順に流れるはずだが、今の霞が関ではそうなっていない。
財務省の太田充理財局長の国会答弁によると、国交省は5日午前10時に、まず電話で首相官邸の杉田和博官房副長官に報告し、杉田氏は国交省に「財務省の調査に全面的に協力するように」と指示し、財務省にも徹底的な調査を指示した。
杉田氏は、6日にはこの経緯を秘書官を通じて安倍首相に報告するとともに、菅義偉官房長官に直接伝えた。杉田氏から指示を受けた財務省の矢野康治官房長は、ただちに理財局幹部に連絡したが、麻生氏や福田淳一事務次官には報告しなかったという。
その理由について太田氏は「全てをまとめた11日に報告した」というが、この5日間のうちに麻生氏のコメントは二転三転し、9日の記者会見では「捜査に影響が出る」という理由で改竄を認めなかった。10日には「財務省が改竄を認める方針」という報道が流れたが、麻生氏が改竄を認めたのは国交省の報告から1週間後の12日だった。