プロ野球開幕ですが、そういや自民党の16球団構想ってあったよね

新田 哲史

NPB公式戦仕様の沖縄・那覇のセルラースタジアム:写真AC

東京では、先週半ばに雪が降ったかと思えば、きのう(29日)は今年最高の24.2度に。早いもので3月も終わりを迎えたところで、今夜からプロ野球ペナントレースが開幕する。新聞社時代に野球取材をしていた私も、近年は自分の軸足が政治のほうに移ったこともあり、以前ほど詳細に球界をウォッチできなくなっているが、政治との関係でいえば、安倍政権の地方創生政策の一貫で、自民党からプロ野球の12→16球団への拡大構想が示されたことを思い出した。はやいもので、もう4年も前のことだ。

わが国のプロ野球において、静岡県、北信越、四国、沖縄県などに球団の空白地域が残っており、プロ野球市場の拡大とそれを通じた地域活性化の可能性がある。有識者による提言を受けわが党でも、球団を増やすことと地域活性化の関連性や支援策などに関し検討の場を設け、「プロ野球16球団構想」等の実現による地域活性化を目指すほか、とりわけ沖縄に関しては、沖縄振興の観点からどのような支援が必要かなどの対応策について議論を深める。また、政府に対しては、球団を増やすことと地域活性化の関連性と政府による支援策などに関し検討を加えるよう要請する。

出典:自由民主党日本経済再生本部「日本再生ビジョン」自民党サイトより)

自民党の構想提案に石破氏が「政府として検討」と答弁

このビジョンが出てから2年後の2016年2月の衆院予算委員会で、後藤田正純議員の質問に対し、当時地方創生担当相だった石破茂氏が答弁で検討する意向を示し、再び脚光を浴びた。議事録から当時のやりとりの主要部分を振り返ろう(太字は筆者)。

後藤田氏   今、野球がないのは、四国、沖縄、あと、千三百万人以上いる九州でいうと南九州。でも、手を挙げるところは、いいですよ。だから、さっきの地方移転と同じパターンで、これ(注・球団拡大)ができたら盛り上がると思いますよ。しかも、今までのプロ野球というのは、申しわけないですけれども、各企業の何か宣伝広告みたいな感じなんですよ。そうじゃなくて、Jリーグの成功のように、地域リーグ。だって、Jリーグは後からできたのに、J1、18チームですよ、プロ。J2、22ですよ。J3、13ですよ。これは何をやっているんですかという話なんですよ。

だから、そういうことも、こういうのを言うと、また、いや、民間のことですからみたいなことを言うんだけれども、総理、挑戦させてください、総理から。ぜひ、このことも含めて、石原大臣と石破大臣にちょっと御意見を聞かせていただきたいと思います。

後藤田氏の質問は、Jリーグの拡大と単純に比較しすぎている気もするが、煽る効果はある。これを受けて石破氏の答弁。

球団数拡大について答弁する石破地方創生担当相(当時、衆議院インターネット中継より)

石破氏 アメリカでは、ここ15年ぐらいの間に総収益が4倍になったということを聞いております。日本は全然変わっていない。このことはよく我々も認識をしなければいけないことだと思います。

委員の今の御指摘は、例えば徳島インディゴソックスのような独立リーグとの関係をどのように整理をするか。ただ、球団がふえていくということは、それだけ若い子たちにも競争の機会が与えられるということだと思います。楽天イーグルスの仙台のように、地域活性化にもなります。

思うに、官が物を言うことであって、民主導でありますし、政府が言ったからそういうふうになるわけではありませんが、なぜ、球団をふやせば地域創生につながり、そして若い人たちの夢につながり、経済に貢献をするかということは、また委員の御指摘を踏まえて政府としても検討いたしてまいります

後藤田氏はずいぶんと前のめり気味。石破氏は淡々と「検討」と述べただけだが、一部報道では「前向き」と解釈もされた。当時は地方創生に関するニュースが多く、このやりとりは一時的に脚光を浴びた。自民党側としては、16球団構想の“宣材”としての役割は功を奏した部分もあったろう。しかし、その後、石破さんが閣僚から外れたこともあってか、とんとマスコミでは話題にならなくなった。

石破氏の答弁では、政府の政策として16球団構想を検討しているのが公式見解のはずだが、石破氏の後任の山本幸三氏、現職の梶山弘志氏が言及したニュースは、お見かけしない。

この16球団構想に対しては、当時から批判も絶えなかった。野党からの「野球の政治利用」といった低次元の指摘があったわけではない。実利的な話だ。スポーツビジネスに関心のある人であれば、自民党提言で指摘されている球団の空白地域のうち、北信越、四国、沖縄などは商圏規模や交通アクセスなどの課題がありすぎて、採算性が取れるのか当然疑問視されるところだろう。16球団構想は、選挙時のマニフェストに入っていたものではないし、「言いっ放し」で終わってしまうのは政治ではいつもの光景とみる向きもある。

自民党総裁選で石破氏らの再提起に期待

一方で、今年9月の自民党総裁選に向けて、地方から「活性化」を求める圧力が再び高まろうとしている。前回12年の時とルールが一部変更し、議員票と地方票が同数になり、前回は国会議員のみの参加だった決選投票にも地方票が一部反映された。石破氏が地方行脚に力を入れているのは、このルール変更を意識し、前回総裁選で国会議員票で伸び悩み、安倍首相に“逆転負け”を喫した経緯も踏まえ、“票田”拡大に乗り出しているからなのは間違いない。

そういう意味では、石破氏が秋の総裁選に向けて、16球団構想を、あらためて政策の一つに掲げ、球団空白地域の活性化策の一つとして示すのであれば個性が出て面白い。もちろん、ほかの候補者も魅力的なスポーツ振興を出す政策論争につながれば歓迎だ。

楽天球団誕生で仙台は活気付いたが…:写真AC

ただ、そこで大事なのはハコモノありきでの税金浪費でないことだ。鈴木友也氏も紹介していたが、秋田県の佐竹敬久知事が、日本政策投資銀行が提唱するスマート・ベニューも意識した「複合型スタジアム」構想について「東京のコンサルタントが自分でもうけるために示したものなので東京の言うことは聞かない」と過激に述べたことは、示唆に富んでいる。

もちろん、東京や欧米の先進的な知見に対し、地方が、まったく耳を傾けない姿勢では困るが、鈴木氏も言うように地域それぞれが主体的に自分たちにあった活性化策を編み出すのが望ましい。

球団空白地域では、青森市のスポーツ振興担当の職員として、野球の普及・指導に奮闘する元日本ハム投手の今関勝さんのように、縁がなかった土地に移住した元プロもいる。野球の底辺を拡大し、地域の野球熱を高めないと持続可能性のある市場にならないわけで、道半ばにしてプロの世界から離れた元選手たちの活用など、“人づくり”の重要性も問われる。政治・行政はきっかけづくりと部分的初期投資に徹し、最後は志のある地域・民間に任せるのが妥当だ。

来年はプロ野球の開幕直後に元号が変わる。「ポスト平成」へ、政界と同じく球界も再編が必要な時期にきているのではないか。16球団構想、いきなりのエクスパンションが無理でも、ファームの拠点分散・半独立採算化、あるいは独立リーグ等を巻き込んだ2〜3部制など、現実的にできるところから積み上げていきたい。

余談:2018年プロ野球順位予想

セ ①広島②DeNA③巨人④阪神⑤ヤクルト⑥中日
パ ①ソフトバンク②楽天③西武④オリックス⑤ロッテ⑥日本ハム