見出しの答えは「聖母マリア」だ。イエスはクリスマス、十字架後の「復活」、そして「昇天の日」などが大々的に祝われるが、母マリアの祝日回数はここにきて上昇気流に乗っているのだ。少なくともローマ・カトリック教会では聖母マリアの価値がイエスのそれを凌ぐ勢いを見せてきている。これは世界のジェンダー・フリー運動やフェミニズムの成果を物語るのか、それとも人類の歴史をこれまで主導してきた男性社会への強烈なアンチ・テーゼなのか。
世界に12億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会の総本山バチカン法王庁の典礼秘跡省長官、ロベール・サラ枢機卿は3月3日、「教会の母マリア」を教会の新しい記念日としたと発表し、同月27日に正式に公表した。曜日は、聖霊降臨の翌日の月曜日だ。ただし、聖霊降臨後の月曜日を祝っているドイツやオーストリア独語圏の地域は例外となる。ローマ・カトリック教会のミサ典書では「聖霊降臨祭後の月曜日か火曜日のミサには信者は参加することが義務づけられている」と記述されているが、その内容は変わらないという。
ロベール・サラ枢機卿は新しい教会の記念日「教会の母マリア」を導入する教令を発表し、教会カレンダーに加え、その祭事の実施を義務づけると説明した。
同枢機卿は新しい記念日について「マリアはキリストの母であると同時に、教会の母だ。マリアは教会を守るために生涯努力した」と説明し、マリアの霊的母性の価値を強調した。
ちなみに、「教会の母」という表現は第2バチカン公会議第3会期最後のパウロ6世(在位1963~1978年)の声明に基づく。「教会の母マリア」への典礼的祭事は1975年以来、既に実施されてきたが、今年からその日が教会の「記念日」へとレベルアップしたというわけだ。
ドイツ語圏のローマ・カトリック教会では、聖母マリアの栄誉を称える「聖母の被昇天」「無原罪の聖マリア」など祭日のほか、祝日、記念日が年に12回あるが、今回の記念日でその数は13回となる。世界各地で年13回も称えられ、祝福される女性は過去を含め聖母マリアしかいないだろう。
参考までに、カトリック教会の聖母マリアに関連した典礼カレンダーを紹介する(カトリック教会の典礼では「祭日」、「祝日」、そして「記念日」の3つのランキングがある)。
1、 神の母聖マリア(祭日)
2、 神のお告げ(祭日)
3、 聖母の訪問(祝日)
4、 聖母のみ心(記念日)
5、 聖母の被昇天(祭日)
6、 天の元后聖マリア(記念日)
7、 聖マリアの誕生(祝日)
8、 悲しみの聖母(記念日)
9、 ロザリオの聖母(記念日)
10、 聖マリアの奉献(記念日)
11、 無原罪の聖マリア(祭日)
その他、5月は「聖母の月」として祝われる。
キリスト教社会で長い間、神は父性であり、義と裁きの神であったが、慰めと癒しを求める信者たちが、母性の神を模索しだしたのは自然の流れだった。そこでイエスの母親、聖母マリアが第2キリストとして母性の神を代行してきたわけだ。
ポーランドやスペイン、ポルトガルなどの南欧諸国では熱心な聖母マリア崇拝が広がっている。聖母マリアを“第2のキリスト”のように崇拝する信者も少なくない。
ただし、イエスが結婚して妻を娶っていたならば、イエスの家庭で神の父性と母性の両格位が完成していたから、聖母マリア崇拝といった現象は起きなかっただろう。その意味で、聖母マリア崇拝の背後には、イエス家庭の悲劇が隠されているわけだ(「イエスが結婚できなかった理由」2012年10月4日参考)。
興味深い点は、新しい記念日「教会の母マリア」は神に男性格と女性格があり、ここにきて女性格の神がその権能を発揮し出してきたことを示唆していることだ。女性格の神の台頭が人類に幸福をもたらすか、それとも新たなカオスの前兆か、その答えが出るまでもう少し時間が必要かもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。