こんにちは!肥後庵の黒坂です。
「うちの業界は斜陽産業…。この先、明るい未来はないから転職しなきゃ」
「起業するなら今をときめくITや金融一択!」
といった具合に、斜陽産業の未来を絶望視している人は多いのではないでしょうか。かつて、日本を席巻した数々の産業も「オワコン」と言われるものも少なくありません。斜陽産業と言われる業界は印刷業界、新聞業界、出版業界、音楽業界、農業などが例に上げられることが多いです。
いつの時代も、新しい企業・サービスが世界を牽引しており、その事実を否定することは出来ません。しかし、私は斜陽産業にも大きなビジネスチャンスがあると思っています。今回は自らの意思で、斜陽産業に関するビジネスで起業をした経験からお話をさせて下さい。
新興企業が世界を牽引している
世の中の変化はどんどん速くなっており、「10年間」という期間は世界の風景をガラリと変えてしまうのに十分な時間と言えるのではないでしょうか。そしてそうした大きな変化は、いつも新興企業がもたらしているものなのです。
過去10年間でどんな変化があったでしょうか?iPhoneが発売したのは今から11年前の2007年、かつては日本人なら誰もが使っていたガラケーはすっかりスマホへと変わってしまいました。また、街を歩けば本屋さんはずいぶん少なくなりましたし、オンライン上の交流に目を移すとmixiの代わりにFacebookへ変化していることが分かります。携帯電話番号を使ったメッセージサービスであるSMSを使っている人は、もうあまりいなくなってしまいました。私自身、世界を見る風景は大きく変化したと感じます。
このような大きな変化は、新しい企業やサービスによってもたらされているものであり、「世界は新興企業が牽引している」という事実があります。この事実をあなたに理解してもらうためにうってつけのデータがあります。それは「世界時価総額ランキング」です。2007年と2018年の時価総額ランキングを比較することで、この事実を理解頂けるでしょう。データを用意したので見てみて下さい。
まずは2007年。ランキングトップ10の多くは老舗企業が占めていることが分かりますよね?創業年度を見てみると、GEは1892年、AT&Tは1983年、ロイヤル・ダッチ・シェルは1907年、トヨタは1937年となっており、創業から100年前後の老舗企業ばかりです。また、業界もオイル、通信、自動車などが続きます。
さて、次は2018年の世界時価総額ランキングトップ10を見ると、マイクロソフトを除いて残り9社は総入れ替えとなっています。そしてこちらはITと金融ばかりです。IT企業はアップル、Google(アルファベット)、アマゾン、マイクロソフト、テンセント、フェイスブックと6社連続でトップにランクインしており、金融はバークシャー・ハサウェイ、JPモルガン、そして中国工商銀行があります。IT企業についていえば創業からせいぜい20年程度の企業が多いです。「比較的若いIT・金融企業が世界のトップを占めている」という事実を反映していると思いませんか?
2018年の今の世界を牽引しているのは「ITと金融」であり、最近は金融とITを融合した「フィンテック(Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語)」という新しい分野も誕生しています。フィンテックの新興企業はマネーフォワードやfreeeといった企業があり、いずれも短期間で次々とサービスを提供しており、大きな注目を集める企業です。
斜陽産業は衰退していく
ITや金融の新興企業と、斜陽産業を比較するとその成長度合いはケタが違います。ITや金融の世界ではどんどん新しい会社やサービスが誕生し、新しいパイが生み出され、更にそのパイの拡大はすさまじく速いのです。その一方で、斜陽産業は衰退しています。かつては世界を席巻した企業が作り出した大きな市場も、時間の経過とともに小さくなっていっているのです。その答えは簡単、業界から人がいなくなっているからです。新しい企業も登場しませんし、若者の目は未来を生み出すITや金融に向いています。
私は農業に携わる仕事をしてこのことを実感しています。近所の農家さんや取引先から「もう今年で農作物の生産はやめようと思う」とか「あの農家も体を壊して辞めるらしい」といった”引退の声”をよく聞きます。また、当店の商品仕入れをしているバイヤーも「昔と比べて、市場に並ぶ果物の量は明らかに少なくなり、仕入れ値も上昇している」といっています。こうした農業の衰退は私の個人的体感による意見ではなく、フルーツの生産量減少というデータに表れている毅然とした事実なのです。
江戸時代には80%以上もの人たちが農業に携わっていましたが、今は2% 以下と言われます。今後、この2%が更に小さくなることはあっても更に大きくなることはないでしょう。
こうした事情があり、斜陽産業の先にある未来を「明るい」と思える人は多くないのではないでしょうか?
斜陽産業という最強のブルーオーシャン
斜陽産業を沈没した某豪華客船に例えた人がいます。なるほど、うまい例えだなと思います。一世を風靡した豪華客船は現在、斜陽産業になってしまいました。斜陽産業という沈没船から大量のネズミが逃げ出すように、担い手が減っているというのです。大きく儲からないビジネス、将来性が感じられないビジネスから、新しい企業や担い手となる労働者がいなくなっても何も不思議ではないのです。
ですが、考えてみて下さい。確かに企業や労働者はいなくなってしまうのですが、市場は残ります。間違いなく減少はしますが、突然0になることはないのです。そして日本は世界第3位の巨大なGDPを持っており、その60%は個人消費が支えています。この巨大な国内消費があるので、担い手が減ってしまった後の斜陽産業市場でも、十分にご飯を食べていくことが出来る規模ですし、実際に私はこの産業でご飯を食べています。
この斜陽産業には国際競争や高学歴で高い能力を持つ人達による、血で血を洗うような熾烈な競争はありません。優秀な人たちの多くは、ITや金融の世界で激しい競争を繰り広げています。斜陽産業から企業や担い手がいなくなったことで、これまで不便だったものをITや金融の技術を取り入れてマーケティングをし、サービスを提供するとそれだけでライバルに大きな差をつける事になり、生き残ることが出来るのです。
私が農業関係のビジネスで起業をしたのは2015年、市場にはすでにものすごい数の競合がいて完全に後発タイプです。しかし、ありがたいことに年々順調に売上を伸ばし、ビジネスは成長を続けています。また、フルーツビジネスの専門家として雑誌やテレビ、ラジオやネットメディアなどに迎え入れて頂くことが出来ました。私がもしも先端のITや金融の世界に身をおいていたら、同じことは起きなかったでしょう。新興市場で名を馳せるには、よほど突出した実績や能力を示さない限り難しいのです。その反面、農業関係のビジネスには、ITや金融の世界ほどは強力な競合がおらず、そこには青い青いキラキラと輝くブルーオーシャンが広がっているのです。
私は起業する前は東京で会社員をやっていました。その頃は経済・金融関係の仕事や、IT、そしてグローバル経営企画職などに従事していましたのですが、その頃は本当に大変でした。なぜなら自分がいくら努力をしても、その上をいくライバルが社内外に数多くいたからです。自分よりすごい人を見ては「自分はこんなに優秀な人ばかりがいる世界で、この先生き残っていけるのだろうか?」と不安を感じることも少なくありませんでした。市場の拡大や稼げるチャンスのある新興ビジネスに身を置くと、強力なライバルが多くて生き残りが本当に大変です。競争が激しいので、みんな長時間働き、そして自己研鑽に励んでいます。かつては私も土日に資格をとるためにビジネススクールに通っていた時期がありましたが、激しい競争に置いていかれないようにするだけでも、とてもプレッシャーが強くて大変だと感じたものです。
私は新興企業でイノベーションを追求し続ける生き方も、斜陽産業の市場でブルーオーシャンを謳歌する生き方の、どちらも否定しません。ただ、言いたかったのは「斜陽産業も、みんなが思っているより居心地は悪くないんだぜ?」ということです。
黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表