英高級紙ガーディアンは小型タブロイド化で生き残れるか? 

小林 恭子

ガーディアン紙(1月15日付)とサン紙(1月19日付)

(日本新聞協会が発行する月刊誌「新聞研究」の「世界メディア事情」3月号に掲載された、筆者記事に補足しました。)

英リベラル系高級紙「ガーディアン」とその日曜版にあたる「オブザーバー」が今年1月、経費削減のため、縦に細長いベルリナー判から小型タブロイド判に移行した。字体を含めて紙面及びウェブサイトのデザインも刷新した。

日本同様、英国の新聞も紙版の発行部数が長期にわたり減少傾向にあるが、小型化、デザイン刷新は果たして部数増加に貢献するのだろうか。

小型化の背景や英メディア界の評価を紹介してみたい。

印刷費用を削減するためタブロイド化

両紙を発行するガーディアン・ニュース&メディア社(GNM)は、来年4月までに財政を健全化させる3か年計画を実行している。今回のタブロイド化はその一環だ。

2005年から導入されたベルリナー判での発行には専用の印刷機が必要だったが、タブロイド判であれば他の新聞社の既存の印刷機を使うことができる。

そこで、全国紙「デイリー・ミラー」や地方紙など約260の新聞を発行するトリニティー・ミラー社がガーディアン(1月15日付から)とオブザーバー(同月21日付から)を印刷・発行するようになった。

小型タブロイド化で「数百万ポンドを節約でき、ガーディアンの長期的将来を確固としたものにする」(プレスリリース)という。

経営状態は?

ガーディアンとオブザーバーの経営状態を見てみよう。

昨年4月決算によると、GNMを中核ビジネスとするガーディアン・メディア・グループ(GMG)の収入は前年比2.4%増の2億1450万ポンド(約335億円)、電子版からの収入は9410万ポンド(前年比14.9%増)、営業損失は3800万ポンド(同33%減)となった。

電子版の収入増の要因は、購読料とは別に設定される会員費(購読者と合わせると、決算時で約40万人)、モバイル版アプリからの収入、読者からの寄付金など。損失の削減は従業員を1860人から1563人と大幅に減少し、費用を削減したことによる。

3か年計画の柱は「新たな収入源の確保」「オーディエンスとより深い関係を作る」「経費を20%削減する」の3つ。GMGのデービッド・ペムセルCEOによると、今年4月までに営業損失を3800万ポンドから2500万ポンドに減少させ、翌年までに解消する見込みだ。

英メディア界の反応は

ガーディアンはどのように変わったのか?

小型化以外には、題字を変え、見出しには新規の字体「ガーディアン・ヘッドライン」を導入。「真剣で、信頼できるジャーナリズム」を提供する「質の高い、グローバルなニュース・ブランド」にふさわしい紙面づくりを目指した。

英メディア界の評価を見てみよう。

大衆紙サンは「タブロイド判ガーディアンより安い」という表現を1面の題字の上に記載した(1月16日付)。社説では「(ガーディアンは)他では読めない、大きなスクープを載せたらどうか。(高級紙は)そんなことは聞いたこともないだろうが、そうすれば1部か2部でも売れるだろう」と皮肉たっぷりだ。

左派系高級紙「インディペンデント」の元編集長で現在はBBCのメディア記者アモル・ラジャン氏は、全体的に「魅力的」なデザインであると評価した。

しかし、1面の題字を2段組にしたことで「最も弱い面」になった、と指摘もした(BBCニュース、1月16日付)。一段組だった「The Guardian」という題字が「The」が上段に、「Guardian」がその下に来る形となったからだ。これによって紙面の縦の間隔が狭くなり、保守系高級紙で同じサイズのタイムズ紙の1面と比べて中面に何があるかを示す情報も少ないという。

新しい字体と、見開き両面を使って鮮烈な写真を掲載する「アイウイットネス(目撃)」、長文記事が冊子として組み込まれた「ジャーナル」、スポーツのドラマを再現する写真や記事の配置については称賛した。

紙面刷新の目的が「コスト削減」、「編集長が自分はこれをやったということを示すため」、「デジタル化が進む中、印刷媒体の意義を読者に認めてもらえるかどうか」だったとすれば、もし最初の目的を果たし、黒字化に成功すれば、ガーディアン編集長キャサリン・バイナーとGMGのペムセルCEOは「歴史に名を残すだろう」(ラジャン氏)。

筆者は新装初日の1月15日にガーディアンを入手し、大きな期待を持って紙面を開いた。全体としては、タイムズの紙面によく似ている印象を持った。

ガーディアン(1月15日付)とサン(1月19日付)の1面を、この記事の冒頭に入れてみたが、直ぐに目が引き付けられたのはサンの方だ。ウィリアム王子の新しい髪型が180ポンドの高額であったことをユーモアを交えて報道している。

一方、ガーディアンの方は、内部告発サイト「ウィキリークス」に米軍の機密情報を流したチェルシー・マニング氏の画像を載せている。

マニング氏は長期の受刑を課せられていたが、昨年1月に恩赦を与えられ、5月からは一般市民の一人として生活している。

今回、サンの1面のようなパンチ力が、ガーディアンにはないように感じた。ただし、大衆紙のように「強く叫ぶ」スタイルを取らないのが、ガーディアンやタイムズなどの高級紙の特徴ではあるのだが。

紙は下落傾向、電子版はトップクラス

英ABCの調査によれば、昨年12月時点でガーディアンの紙の発行部数は約15万部(前年比5.88%減、前月比3.32%増)、オブザーバーは約17万5000部(前年比3.7%増、前月比0.27%減)。

一方、ウェブサイト(ガーディアンとオブザーバーは1つのサイトにある)の月間ユニークブラウザーは1億4000万を超え、英国ではトップクラスだ。寄付金、会員費、購読料など何らかの形で資金を提供する人は、年末時点で80万人を超えた。

電子版で記事を読む人が圧倒的に多く、購読料とは別に会費あるいは寄附金を払う人も相当数いることから、両紙の将来はデジタルにあると見るのが妥当だろう。

紙の新聞の印刷・発送を他の新聞社に委ねて身軽になったGMG社が、2016年3月に完全電子化したインディペンデントに続く決断をする、つまりガーディアンとオブザーバーを完全電子化する日はそれほど遠くないのではないか。


編集部より;この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2018年4月6日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。