ハリー星崎さんは、コンサルタント業界大手マッケンジー社に所属するディレクターである。30名のチームをマネージしている。通期での目標は30億円。3月末、苦労の末に目標達成を実現した。自身の契約も無事に更新した。振り返れば厳しい1年だった。
W杯出場の果てにあったもの
年初の埼玉県主催の企画コンペでは、UAEに惜敗した。年初に失注したら目標達成は不可能とまで言われた。その後も、ジンクス打破に挑んだが苦難の日々は続いた。期末最後のコンペで、豪州に快勝し6期連続の目標達成と、ロシアで開催されるコンサルタント世界大会(通称:W杯)の日本代表として参加することが決まった。
ハリー星崎さんは、受注の連絡を受けると涙した。妥協を許さない姿勢で指揮をしてきたがマスコミのバッシングは容赦なくナーバスにもなった。インタビューではチームのスタッフや関係者に謝意を表した。歓喜するスタッフからビールをかけられると、気持ちよさそうに受け止めた。そして、「勝つためにすべて準備をする」と宣言する。
今回、受注を逃すと責任問題に発展していた。本戦に出場すればスポンサーボーナス等で60億円近いマネーが動くとも言われており、失注すれば60億円が水の泡になる危険性もあった。マッケンジー社では続投を確約し進退問題は決着したかに見えた。ところが、大会がはじまる2ヶ月前にハリー星崎さんは突然クビになり失意のどん底に落とされてしまう。
予選突破を一層困難にさせた解任
日本サッカー協会の田嶋幸三会長は9日午後、ハリルホジッチ監督の解任と、西野朗技術委員長を新監督とする人事を発表した。私はサッカーの専門家ではないが、気になる点があるので指摘したい。まず、今回の解任は、理にかなっているのだろうか。
昨年の豪州戦で勝利しW杯出場を決定させた際に、田嶋会長は「こういう勝ち方で決めたので、ぜひロシアまでやってもらいたい」とW杯ロシア大会までの続投を確約した。当時、多くのメディアは1年間に及ぶ進退問題がようやく収束したと報道した。
さらに、ハリル氏は家族に健康問題があったことを明かし「試合前に帰国しようと思ったがチームに責任があった」ことを吐露する。「プライベートのことなので、たくさんのことにはお答えできない」としながらも、責任感のある姿勢に多く人が胸を打たれた。
昨年の衆院選、小池氏の排除発言がきっかけとなり希望の党の支持率が一気に下落した。そのまま選挙結果にあらわれ排除事件とまで言われた。「排除」とは何か?それは、誰か、または何かを追い出すこと。有権者は言葉の裏にある本音を見抜いたのである。
今回は、「解任」だが、解任の意味は、雇用の終了を意味する。わかりやすくいえば、解職、御払い箱、御役御免、クビと同じで「排除」に近い意味合いになる。このような「解任」は支持されないように思う。ハリル監督は、コートジボワール、アルジェリア、日本の3カ国をW杯に出場させた経験がある。アルジェリアはベスト16まで導いている。
田嶋会長は、「1ミリでも勝つ可能性を高めるための決断」だと言われた。また、「内部で一番、このチームを見てきた西野氏を監督に決定しました」と決定理由を説明した。後任の技術委員長を務める西野氏はW杯を率いた経験はない。さらに、技術委員長という立場を鑑みれば、今回の一件について責任がないとはいえない。
日本の弱点はダダ漏れになる
「内部で一番、このチームを見てきた西野氏を監督に決定しました」という発言や、2ヶ月という期間を考えれば、戦術的な基本的なスタイルは変えられないのではないか。ただでさえ、厳しいと思われた予選(ポーランド6位、コロンビア13位、セルビア34位、日本55位)だったが、これで突破の目はついえてしまったようにも見える。
相手チームは、ハリル氏から、様々な情報を入手するだろう。日本が惨敗すれば、ハリル氏の株は上昇する。今回の解任は常識的に考えれば日本に問題があると考えられる(あくまでも予想)。W杯出場を決めている監督をクビにするのだから大義はない。契約内容次第だが、当然、情報漏洩を防ぐことは困難になると推測される。
さらに、日本サッカー協会は公益法人である。田嶋会長はトップの専権事項で解任したことを口にされた。社会公共の利益をはかることを目的とし、営利を目的としない公益法人のトップに専権事項があるのかも検証が必要ではないだろうか。
尾藤克之
コラムニスト
代議士秘書、コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。著書はビジネス書、実用書を中心に10冊。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)が発売後、1週間で重版。現在好評発売中。Twitter:@k_bito