欧米のシリア攻撃に「正義」はあるのか?

清谷 信一

シリア攻撃でのミサイル発射(米国防総省サイトより:編集部)

米州首脳、米国のシリア攻撃へ賛否相次ぐ日本経済新聞

米英仏がシリア攻撃 ロシアと対立、新局面日本経済新聞

米英仏3カ国はシリア時間の14日未明、シリアのアサド政権が反体制派との戦闘で化学兵器を使ったと断定し、首都ダマスカス近郊などの同兵器関連施設3カ所への軍事攻撃に踏み切った。化学兵器の使用を「レッドライン(越えてはならない一線)」と位置付け、アサド政権の後ろ盾であり、国際秩序をかき乱すロシアに対し警告を発した。

米国もロシアも内政が絡んでシリア問題で歩み寄りの糸口をつかめない。トランプ氏は16年の大統領選などでのロシアとの共謀疑惑に対する追及の手が強まるなかで、対ロ強硬姿勢をアピールすることで批判をかわす思惑もあるとみられる。

米欧も泥沼のシリア内戦への関与にはちゅうちょしており、今回の「1回限り」とする攻撃は限界も示している。化学兵器禁止機関(OPCW)の調査を待たずに決行したことで、「化学兵器使用はでっちあげ」と主張するロシアにつけいる隙を与えている。緊張をあおって相手から譲歩を引き出すプーチン政権の瀬戸際戦術に歯止めが掛かる保証はない。

米ミサイル攻撃105発 シリア化学兵器施設3拠点に朝日新聞デジタル
攻撃の根拠である化学兵器使用の確たる証拠は示されていない。前日まで証拠があるか断定を避けてきたマティス国防長官は会見で「アサド政権が化学兵器を使用したことを確信している」と言い切った。だが、「塩素ガスが使われたと確信している。サリンの可能性も排除しない」としつつも、詳細は判明していないことを認めた。

シリアが化学兵器を製造、使用したことは黒に近いグレーでしょう。ですが現在確固たる証拠はありません。
安易に欧米のいうことを信用していいのでしょうか。

我々が思い出さなければいけないのは湾岸戦争であり、イラク戦争です。

湾岸戦争ではクエートに侵攻したイラク軍が病院で赤ん坊を殺しているという「現地から逃げてきた少女」の証言がテレビなどで流されて、世論が開戦に傾きました。ところがその事実はなく、少女は駐米イラク大使の娘でした。これはPR会社が担当した小芝居たったわけです。

そしてイラク戦争ではイラクが大量破壊兵器を保有しているというデマを流して、戦争を起こしました。これがヤクザのインネンに近い捏造であったことは米英などのメディアが既に検証していることです。情報機関が戦争を起こしたいという政権に忖度してフェイクの情報をでっち上げて、それにメディアも乗っかりました。

更に申せば、旧ユーゴスラビアの紛争もそうです。ボスニアを被害者のように取り上げ、セルビアだけを悪と決めつけて攻撃ましたが、実際はどっちもどっちでした。

これらのことを考えれば、迂闊に欧米の「正義の攻撃」を真に受けていいのでしょうか。
安倍政権はこの攻撃を支持しましたが、諜報機関も無い我が国がどうして、シリアの化学兵器のエビデンスを検証したのでしょうか。防衛省なんてウィキペディアを参照して内部資料作るような組織ですよ。

そして欧米は着地点をどこに求めるのか。
これが一回限りのピンポンダッシュなのか。
アサド政権を潰すのか。これまで欧米諸国はアサド政権に対して多くの嫌がらせをしてきました。

確かにアサド政権の独裁は問題ですが、仮にアサド政権が倒れたらどうなるのか。イラクではフセイン政権を倒したあと、内戦状態とテロの応酬が続いています。

アサド政権が倒れたら民主国家ができて、みんな幸せに暮らしましたとさ、というおとぎ話のような話にはならないでしょう。仮に選挙が行われて民主的に政権が選ばれても、独裁化したり、イスラム原理主義国家にならないという保障はありません。

地理的に見て、シリアが混乱すればそれはイラク以上に大変なことになります。特に欧州にとっては剣呑な事態となるでしょう。欧州への難民とテロのさらなる輸出が増える可能性は大です。

更に申せば、欧米はウクライナの現政権を支持していますが、暴力で政権を奪取した上に、はっきり言ってギャングや、与太者の集まりという点では前の政権と目くそ鼻くそです。
しかもウクライナは中国や北朝鮮に対して軍需関連の輸出が多く、技術移転も行っております。特に北朝鮮の弾道弾開発に対する協力は問題です。

ところが欧米はウクライナを支持し、ミサイル輸出するなど軍事援助まで行っております。

そのような欧米が「人道」や「正義」を口にして、シリアを攻撃することは果たして正しい行いでしょうか。

■本日の市ヶ谷の噂■
鈴木良之防衛装備庁長官の人事は豊田硬事務次官のお友達人事で、安倍晋三首相の稲田朋美防衛大臣任命に匹敵する人事だと現場とでは不評との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年4月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。