次官セクハラも初期対応にまずさ
日米首脳会談を一面トップに掲載していた全国紙は一紙くらいでした。他紙は財務次官のセクハラ辞任で大展開していました。トランプ大統領も自身のセクハラ疑惑、側近の相次ぐ更迭で政権基盤が揺らいでいますし、安倍首相も次々と浮上する不祥事で支持率が急落し、混迷の度を深めています。首脳会談の主な狙いが支持率回復や選挙対策だとみられていますから、しょうがないのでしょうか。
セクハラについて、麻生財務相が当初、「事実ならアウトだろう」と述べ、私は「正直なことをたまには言う」と思っていました。これが結局、正解だったのです。その後に「週刊誌には話しても、守秘義務を守る弁護士には言えないというのはちょっと」とか、余計なことをいって評価を下げました。
麻生氏にセクハラの管理事件、理財局の公文書改ざんの責任を取らせ、野党は辞任に追い込もうとしています。次々に首を差し出していったところで、その次にまた新事実がでてくるかもしれないのです。政治の信頼を喪失する疑惑、事件が多発する流れの中で、対策は小出しにしていくべきではない。
森友学園、加計学園問題でも、安倍政権は初期対応を誤り、誤りを覆い隠そうとして、火の粉を広げて行ったのではないか。麻生氏が「森友問題は昭恵から。なぜオレの責任なのか」と口走っているとかですし、加計問題は「親友に対する首相の配慮が発端」との見立てに多くの国民は気がついています。「そうではない」と否定するたびに、官邸、官僚による工作が重なっていったとしか言いようがない。
まさか解散はしないだろう
6月解散説がささやかれています。野党には政権をとる力はない。一方、与党は議席を大幅に減らす可能性がある。憲法改正に必要な衆参各3分の2の議席を割るかもしれません。森友も加計問題は、まだケリがついていない。独裁者型政治になっている首相のことだから、解散はないと断言できません。それで断行したら、墓穴への道に踏み込むことになる。
どうするか。問題点が出尽くしたところで、政と官のあり方、省庁再編、独裁的な権力を振う内閣人事局の改革、異次元緩金融和策からの転換、財政再建策の練り直し、その上で文書管理の確立に取り掛かる。責任を感じるべきなのは首相自身であり、総裁選に出馬しない。
広がりを持った改革の取り組みは新政権に譲る。そうして始めて、政治空白の出口にたどり着く。そうした展望を持たないまま、解散することはまさかないと、多くの有権者は信じていることでしょう。
財務次官のセクハラ騒動は、「なぜまたこのタイミングなのか」と思った人は多いでしょう。もっとも19日の新聞朝刊には、新潟県知事の女性スキャンダルによる辞職表明、NHK元記者の複数の強姦事件が報道されていましたから、「次官ともあろう者が」というより、この類の話は社会全体に広がっていることを証明しています。
問題は狙われやすい次官ともあろう者がひそかに録音をとられ、「セクハラに該当する発言をしたという認識はない」というのは信じ難い。セクハラは相手がどう感じるかで決まります。恋人なら喜んでくれるかもしれないし、仕事上の取材記者が相手なら事件になります。そこが分かっていない。
ウソをつくならもっと“巧妙”に
さらに、すぐばれるような話を財務省が調査全文と称する文書に、載せることは信じがたい。いくら次官からの聴取結果とはいえ、「そのような店で女性記者と会食したことはない」とはね。すぐに否定されました。「自分の音声どうか分からない」も、音声鑑定をすればすぐにばれる。どうせウソをつくならもっと巧妙なウソにしてほしい。
顧問弁護士と相談しつつ、財務省が「該当する記者がおれば、調査に協力を(名乗り出て)」と要請し、すぐさま「セクハラの被害者は名乗り出にくいことを知らない」と、袋叩きに合いました。首相を守りたい右翼雑誌にネタを献上したのも同然で、さっそく「女性の人権を無視の財務省」と批判記事がでるでしょう。
テレビ朝日の会見内容についても、彼らは「報道の自由を主張しながらも、今回の事件では自社でなく、週刊誌に書かせた。しかも取材の録音テープを週刊誌に持ち込み、自ら取材源に対する守秘義務を破った」と、批判記事のネタになると大喜びでしょう。とにかく隙だらけです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。