韓国大使が避けた「不都合な事実」

長谷川 良

駐オーストリアのシン・ドンイク韓国大使(Shin Dong – ik)が最近の南北接近と今後の朝鮮半島の見通しについてオーストリア代表紙プレッセ(4月17日付)に寄稿していた。記事のタイトルは「歴史的転換への大きなチャンス」だ。

▲駐オーストリアのシン・ドンイク韓国大使(右)左は天野之弥国際原子力機関(IAEA)事務局長(ウィキぺディアから)

▲駐オーストリアのシン・ドンイク韓国大使(右)左は天野之弥国際原子力機関(IAEA)事務局長(ウィキぺディアから)

読み終わって感じた点は、シン大使は最近の南北急接近を韓国の文在寅大統領の南北融和と対話を提唱したベルリン演説(2017年7月)と平昌冬季五輪大会での南北合同チーム創設などの南北間の融和努力の成果というのだ。もちろん、それらの影響は無視できないが、最近の南北接近の主因ではないことは明らかだ。

シン大使が寄稿の中で恣意的に避けた“不都合な事実”がある。それは日米を含む国際社会の対北制裁の成果だ。具体的には、トランプ米大統領や安倍晋三首相が推進してきた北への強硬な制裁路線の結果だ。
この事実こそ最近の南北急接近を誘発させた主因だ。シン大使は肝心なポイントを無視し、韓国大統領の融和政策を誇示しているだけだ。文大統領へのゴマすり記事といって間違いないだろう。

海外駐在大使が駐在地でお国自慢を披露することも立派なミッションの一つかもしれないが、繰り返すが、最近の北朝鮮の融和路線は、トランプ氏と安倍首相ら国際社会の対北制裁の結果、北の国内経済は破綻。金正恩労働党委員長は従来の強硬路線を変更せざるを得なくなり、訪中して習近平国家主席の前に頭を下げざるを得なくなったのだ。シン大使は北側の事情には全く言及していないのだ。換言すれば、北への配慮だ。

シン大使曰く「2007年以来途絶えてきた南北首脳会談が今月27日、板門店の韓国側の『平和の家』で行われる。北朝鮮指導者が韓国領土の土を踏むのは南北分断後初のことだ」とその意義を強調している。そして韓国政府の対北融和政策によって、北の非核化も実現できると信じているのだ。
韓国の対北融和政策が北の非核化を実現させるというのならば、太陽政策を主張し、南北首脳会談も行った金大中政権時代(在位1998~2003年)に既に北の非核化は実現されていなければならないはずだ。

それにしても、ロンドンの国際戦略研究所(IISS)客員研究員をも務めたほどのシン大使がそのようなことを理解していないということは信じられない。ひょっとしたら、分かっていても口には出せない、というのが真相かもしれない。

記事の中で不思議な点は、トランプ米大統領の名前が一度も出てこないことだ。シン大使は米朝首脳会談には言及しているが、北に路線変更を強いた功績者、トランプ大統領については何も言及していない。ひょっとしたら、大使はトランプ大統領を個人的に嫌いなのではないかと勘繰りたくなる。

アルプスの小国オーストリアのメディアへの寄稿だから、北の最近の融和路線は韓国のこれまでの努力の成果とラッパを吹いても問題がない、という安易な判断が大使にあったのかもしれない。そうだとすれば、オーストリアの読者をバカにしていると言わざるを得ない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。