興味深い記事が独経済紙ハンデルスブラット(4月17日付)に掲載されていた。見出しは「EU大使、中国の『一帯一路』(One Belt, One Road)構想に結束して反対」というのだ。
欧州連合(EU)28カ国中、27カ国の駐北京大使は、中国の習近平国家主席が提唱し、国を挙げて促進している新しいシルクロード計画、通称「一帯一路」について、「自由貿易を打撃し、中国企業の利益を最優先している」と批判する内容の報告書を作成した。
独紙が入手した報告書は、「2013年に明らかになった中国側の計画書にはEUの貿易の自由化に抵抗し、中国企業に有利になるように誘導せよ」と明記されていたと指摘している。
報告書は今年7月に開催予定のEU・中国首脳会談の準備文書の一部だ。ハンガリー以外の大使が署名している。EU委員会は中国のプロジェクト、新しいシルクロードに対し、加盟国の共同スタンスを構築する戦略文書の作成に乗り出しているわけだ。
新シルクロード計画は中国から陸路と海路で南東アジア、パキスタン、中央アジア、中東を越え欧州、アフリカまで65カ国を繋ぐ大構想である。
中国当局が太鼓を叩いて宣伝するプロジェクトは、第2次世界大戦後、米国が戦後の欧州復興のためにスタートしたマーシャル・プラン以来の巨大な国際開発計画だ。
EU外交官は「中国と協調することを拒否するつもりはないが、われわれの立場を説明すべきだろう。中国企業は公共事業の受注競争で優遇されている。シルクロード・プロジェクトは参加国全ての利益を配慮すべきだが、実際はそれからほど遠い」とはっきりと言明している 。
報告書の中でEU大使たちは「中国は自国の利益に合致したグロバリゼーションの形成を願っている。例えば、過剰設備能力の縮小、新しい輸出市場の創設、資源確保の保証だ」という。
中国企業が公共事業の調達に関する欧州の透明性原理、環境保護、社会規約の遵守を強いられなかったならば、欧州の企業は良き商談を得ることは難しい。そして、中国側は欧州の個々の加盟国との関係を強化し、欧州の結束を分断しようとしている。例えば、ハンガリーやギリシャは中国の投資に依存しているため、中国からの圧力を受けやすい。例えば、ハンガリーは2017年3月、北京で拘束された人権弁護士への虐待に抗議するEUの書簡に署名を拒否している。といった具合だ。
もちろん、シルクロード・プロジェクトだけがEUと中国間の問題ではない。トランプ米大統領が言及しているように、外国投資に対する中国側の規制問題や知的所有権の侵害など多数の難問が山積している。
ドイツのシンクタンク、メルカートア中国問題研究所(Mercator Institute for China Studies )とベルリンのグローバル・パブリック政策研究所(GPPi)は欧州での中国の影響に関する最新報告書をまとめたが、それによると、「欧州でのロシアの影響はフェイクニュース止まりだが、中国の場合、急速に発展する国民経済を背景に欧州政治の意思決定機関に直接食い込んできた。この場合、中国企業のドイツの先端技術の取得といった経済スパイ、知的所有権の侵害問題ではない。政治的影響だ」と警告を発している(「中国の覇権が欧州まで及んできた」2018年2月5日参考)。
ジグマ―ル・ガブリエル前独外相は2月17日、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で習近平国家主席が推進する「一帯一路」構想に言及し、「新シルクロードはマルコポーロの感傷的な思いではなく、中国の国益に奉仕する包括的なシステム開発に寄与するものだ。もはや、単なる経済的エリアの問題ではない。欧米の価値体系、社会モデルと対抗する包括的システムを構築してきている。そのシステムは自由、民主主義、人権を土台とはしていない」と明確に断言している(「独外相、中国の『一帯一路』を批判」2018年3月4日参考)。
ドイツ貿易・投資振興機関(Germany Trade & Invest)が今年2月に公表した報告によると、「シルクロード計画は不確な法的枠組みで政治的不安定な国に焦点を合わせている」と結論し、「中国国営銀行が進めるプロジェクトの約80%は過去、中国企業がその恩恵を受けている」と指摘している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。