札幌地裁2017年12月26日判決は、以下のように判示した。
国立大学法人の学生が「退学届け」を提出したところ、大学側が学費未納を理由として「除籍処分」にした。
これに対し、学生側が同大学法人を相手に争った事件だ。
授業料を納付するまで退学を認めない本件運用が学生の在学契約の解除権の行使を制限するものであることは明らかであるところ、退学が学生の身分に重大な影響を及ぼすことからすれば、本件運用が学生に及ぼす不利益の程度は看過することができず、また、当該制約をすることに合理的理由があるとは認められない。したがって、本件運用を根拠に授業料の未納のある学生からの退学、すなわち在学契約の解除を認めないとすることは許されないというべきである。
ずいぶん昔の話だが、学生時代に友人と同じ下宿にいた年長の人が「大学中退も立派な学歴ですよ」と言っていたのを思い出した。また、外交官の経歴でやたらと「中退」が多いのを不思議に思った覚えがある。
退学には、学校側による退学処分と自主退学がある。
前者の退学処分は、犯罪行為等を行った場合等の一種の懲戒的なものであるのに対し、後者は在学契約を学生の方から(将来的に)解除するものだ。
多くの大学では、未納の学費を支払うまでは自主退学を認めず「除籍処分」にしている。
「除籍」というのは、その大学との関係性を抹消されるようなもので、先の「大学中退も立派な学歴ですよ」にすら該当しなくなる。
就職等の際の履歴書に「○○大学除籍」と書かれていれば、「中退」よりもはるかにイメージが悪くなるだろう。
作家の五木寛之氏は、当初早稲田大学を抹籍(「除籍」と同義)されたが、後年、作家として成功後に未納学費を納めて抹籍から中途退学扱いになった。
犯罪行為に手を染めても学費さえ支払っていれば「中退」になるのに、非行行為が一切ないのに学費未納で「除籍」というのは、極めてアンバランスだ。
大学側が学費を支払わせるために、簡単に退学させないという意図がミエミエだ。
大学も経営努力が必要な時代なので、学費未納に厳しく対処するのは理解できる。
しかし、大学は学生の学費だけで成り立っている訳ではない。
毎年国から補助金という多額の血税が投入されている最高学府だ。
各人によって評価は異なるだろうが、「除籍」で脅して(貧乏な学生から)学費を徴収しようとするのは、いやしくも最高学府の行うことではないと私は考える。
本件判決内容を尊重し、多くの大学が個々の学費未納学生の人生と真剣に向き合うことを願っている。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。