総務省がAIとの共存を描いた「近未来小説」を発表!人口減社会の情報戦略

松村 むつみ

総務省が、2017年12月に「未来デザインチーム」を立ち上げました。これは、2030-40年頃人口減少社会を乗り切るために、AIをはじめとするテクノロジーの発達を展望しつつ、情報通信政策のあり方を問う委員会に関連して立ち上げられた若手主体のチームであるようで、男性19名、女性7名、平均年齢28.9歳の人々で構成されているとのことです。

このチームが今年4月、総務省ホームページにて、とある「小説」を公開しました。「新時代家族〜分断のはざまをつなぐ新たなキズナ〜」と題されています。

AIとともに暮らす家族、ダブルワークが当たり前の世の中

内容はどのようなものかと言いますと、生活上の様々なタスクをAIが代替し、人間は様々な仕事を同時にこなし、働く場所、住む場所にとらわれない人々が増えているという、現在考えられる近未来としてはある程度既視感のあるもので、「小説」として考えるとやや陳腐かもしれませんが、それだけに、現代のわれわれの生活と緩やかに地続きでもあるかのようなリアリティがある内容となっています。

年代ははっきりと書かれていないが、2030〜40年頃でしょうか。それとも、もう少し先かもしれません。人型のAIが製造され、家庭で家事や子守をする役割を担っています。登場人物は、サトミさん、ケンスケさん夫婦と、子どものキヨタカとハルカ、同居して家事手伝いをするAIのアイコです。

ケンスケさんの職場には東南アジアを中心とする外国人が増え、英語や通訳ではなく、AIによる翻訳で意思疎通を行います。就職面接もAIがやり、最終決定は人間が行います。AIの補助により、体の不自由な人も数多く働いているようです。食事内容や健康情報もAIが把握し、AIの使用者である人間に「今日は塩分を少なくしてください」などのアドバイスも行ってくれます。

また、小説中では、「ヒューマノイド」なるAIを恋人にする人も出てきます。現在、二次元の恋人を持っている人もいるようですし、結婚したくない人も増えています。とはいえ、「ヒューマノイド」を恋人にする人が増えると、ますます少子化は進みそうですね。

そして、家事を主体的に担い、なんと料理まで作ってしまう「おせっかいロボット」アイコは、熱が出て保育園を休まなければならない子供の、自宅での保育も担ってくれます。これで、サトミさんは仕事を休まずにすむのですが、病児保育をAIがやってくれるのであれば、保育園の先生も全部AIになってしまいそうですね(それはそれで怖いですが。笑)。もちろん、役所関係の書類や、病院の予約などもAIがやってくれます。AIは、優秀な執事としての役割も果たしています。わたしもそんな執事が欲しい、と、思ってしまいます。

サトミさんは、出社を義務付けられているのは週一回で、それ以外の時間はいえで仕事をしています。また、小学校の先生を遠隔でやることもあります。このように、二つや三つの仕事をかけもちするのは当たり前で、「フリーランス」というのはすでに過去の言葉になっています。

この「小説」の気になるところは、これが成り立つ経済的仕組みがどこにも書かれていないところでしょうか。AIの発達により、果たして余剰な仕事は発生しないのか、全て人間は「知能労働」や「クリエティブ」の側に振り分けられるのか。AIにより作り出された膨大な雑務によって低賃金で単純労働をする人は出ては来ないのか、色々と疑問は湧いてきます。最近の論調ですと、そういった単純労働はなくなり、そのかわりに「ベーシックインカム」が発生するのかも知れませんが。

決して夢物語ではない、AIによる医療面のセルフチェック

この「小説」で、筆者が面白いと感じたのは、自分が医師だからかもしれませんが、AIによる医療面のセルフチェックが、少し書かれているところです。ウェアラブルデバイスを用いて脈拍、血圧などのチェックを行い、過去の診療録はゲノム情報などともあわせてデータ管理。「風邪」という曖昧な診断名はなくなっている、とのことです(「風邪」は正しくは「感冒」ですが、この漠然とした名称は便利だから残るのではないか、と、個人的には思いますが)。

ところで、ウェアラブルデバイスによるセルフチェックはもう夢物語ではありません。現在でも、簡単な歩数や消費カロリーなどのデータはスマホのアプリが管理してくれます。将来は、ウェアラブルデバイスによるチェックが「がん」の分野にも及ぶかも知れません。というか、そのようなデバイスは既に研究・開発されつつあります。例えば乳癌の分野では、サーモグラフィーによる乳癌検出の研究がいくつかの海外メーカによってなされています。

サーモグラフィーとは、組織の温度を測定する仕組みのことですが、測定された値を画像化し、AIによる判定が行われ、病院に行くべきか、どうかが判断されます。この「判定」に関して、見落としが多かったり、逆に過剰診断になったりしないように精度を管理するのが医師の仕事のひとつになるかもしれません。こういったデバイスが、一般に血圧計のように普及するのか、病院でのみ使用されるようになるのかは、今後の省庁の判断に委ねられ、国によっても異なってくるでしょう。

また、今後は、癌や認知症の早期診断が、かんたんな血液検査でできるようになる可能性があります。こういった早期診断は、さすがに病院の管理下に置かれるようになるとは思うのですが、現在の「遺伝子検査」のように商業化され普及する可能性もないとはいえません。ちなみに筆者は、こういった検査は、病院による厳格な管理と、野放図な商業化のいずれか両極端ではなく、精度管理をされた上で「セルフチェック」を個人が行える仕組みとなるのがいいと考えています。

総務省の「小説」では、「人生百年時代」にふさわしく、健康でハイキングを楽しむ百歳の独居女性も登場しますが、健康で百歳を迎えるためには、AIを使ったセルフチェックは欠かせなくなるかも知れません。