財務次官のセクハラ騒動を検証する

財務省ツイッターより:編集部

氷山の一角、恐れをなし幕引き

福田財務次官のセクハラ騒動は、財務省が次官の非を認め、調査終了を宣言し、退職金もわずかに減額する形でケリをつけました。セクハラは各界、各分野に相当な広がりを見せているとみられ、次官のセクハラはその一端すぎないのでしょう。これをもって一件落着とせず、社会的な調査、解明が必要です。

財務省の調査が事実とすれば、財務次官という官僚の頂点に立つ人物のセクハラ騒動は、街中の話題、テレビのワイドショーの絶好のテーマになり、ネットで燃え上がりました。財務省とテレ朝・女性記者の対決、麻生財務次官と野党の対決、女性議員の決起など、多くの社会的断面を見せてくれました。

政治の中枢が「いい加減にケリをつけないと、安倍政権の存続にかかわりかねない」とし、最後まで渋る財務次官、麻生財務相らを押し切ったに違いありません。本人のものと特定できるはずの声紋鑑定をしたかどうかについても言及していない不思議な調査でした。

官邸という後ろ盾も失い、財務省が唐突に白旗を上げたのは、この問題が巨大なうねりなることを恐れた結果でしょう。女性の怒りが爆発する前に、対決の鉾を収めたのです。単純なようで複雑な要素が絡むでき事です。大切なのは、どこにこの問題の本質が潜んでいるかを整理しておくことでしょう。

人事院規則はどこへやら

週刊誌の初報に接して、福田氏が「セクハラに該当する発言をしたという認識はない」が騒動に火をつけました。セクハラ関係の法令には、セクハラ防止等の運用に関する人事院規則、職場におけるセクハラ対策を盛り込んでいる男女雇用機会均等法、さらに労働契約法など、いくつもあります。

福田氏の発言、財務省の発表文には、これらの関係法令に言及した部分がありません。官僚に最も直接的に関係してくるのは、人事院規則でしょう。セクハラ防止に関する規則の第1条は「セクハラの未然防止、その行為が行われている場合の制止」義務、第2条は「他の職員を不快にさせる性的な言動」の定義、第4条は「具体的な対策を部内規定で明示」など、詳細に書き込んでいます。トップの責任者はセクハラを起こした事務次官のはずです。

福田氏を擁護したい識者の中には、「国際レベルからみると、日本のセクハラ防止は厳しすぎる」というような指摘が見受けられました。男女関係が緩やかなフランスあたりと比べているのでしょうか。そういうお考えなら、人事院のセクハラ規定を始め、関係法令は是正せよというべきでしょう。

人事院規定は公務員組織内のルールです。次官と記者のように、異なる職場にいる相手とのセクハラをどう考えるのか。民間企業向けのセクハラ防止については、男女雇用機会均等法(事業主の管理義務)や労働契約法(勤務先でのセクハラ対策)が適用されるのでしょうか。労働契約法との関係では、記者のセクハラの訴えを無視したテレビ朝日にも非があります。

何度も1対1で女性記者と会う意図

次に財務省発表でも、「4月4日夜にテレビ朝日記者と1対1で飲食」としており、さらに1年半の間、数回、1対1の会食があったとされます。このような頻度で特定の記者と飲食することは、男女問わずまずありえません。この女性記者に合う特別の動機があったと、考えるのが自然です。

官庁の幹部との会食は、取材を深めるために必要です。勉強会、意見交換の目的で、複数で集まり、議論を交わすことはよくあり、費用も自己負担にするのが普通です。取材目的で女性を1人、招き飲食し、酔った勢いかどうか、「胸触らせて」の発言に及ぶとは、あらゆる弁解は苦しいでしょう。

自民党議員あたりから、「若い女性記者を取材させるのは、特定の目的があるからだ。政府高官の記者を男性だけにしては」という逸脱発言も聞かれました。男女差別に相当するし、選挙になると経験の乏しい美人を候補にしたり、テレビ番組では好感度のよい女性が多数、起用されています。なぜ女性記者だけ問題にするのか。基本的なところで認識が未熟だとしか思えません。

最後に、相手の女性がテレビ記者で、録音テープの扱いをどう考えるかです。正常の個別取材で取った録音を第三者に提供すれば、取材の自由を侵すことにつながります。今回の場合は、セクハラ発言がひどいので、証拠のために記者が録音したと、されています。

ろくでもない会話ばかりだったか、取材に対する答の部分は削除してあったか、セクハラに相当する部分だけ切り貼りしてつなげた録音だったのか。不明なところが多いので、第三者委員会のような形で真相を究明すべきだという識者もいました。

週刊誌が掲載した特定の部分ではなく、当然、すべての録音を提供してもらわないと、解明できません。そうなると、取材における守秘義務を自ら放棄することなります。セクハラだけならともかく、守秘義務が絡んだ事件の調査第三者に依頼するのは好ましくないでしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。