いずも空母化を巡る茶番

清谷 信一

海自サイトより:編集部

「いずも」改修 離島防衛の強化につなげよ(読売新聞)

なんだかなあ、な読売新聞の社説です。
現場で取材しないで、妄想でべき論を語るとこうなるという見本みたいな文章です。
偉くなると、取材しないで書く人が多くなる新聞社のシステムの問題です。これは記者クラブと並んで新聞社の宿痾みたないなものです。

沖縄周辺の離島などが攻撃を受けた時、米軍機が着艦し、海自が燃料を補給することを想定している。いずもの甲板などを改造し、短距離滑走での離着陸が可能な米軍の最新鋭戦闘機F35Bを運用できるようにするという。

政府の主張そのまま鵜呑みです。
ぼくがかつて報じたように、海自は10年以上前からDDHで固定翼戦闘機の運用について語っていました。
空母保有は海自の悲願であることは公然の秘密です。記者クラブ制度でお上の下賜した情報鵜呑みするのは記者クラブ会員の悪い癖です。

沖縄周辺の離島などが攻撃を受けた時、米軍機が着艦し、海自が燃料を補給することを想定している。いずもの甲板などを改造し、短距離滑走での離着陸が可能な米軍の最新鋭戦闘機F35Bを運用できるようにするという。

米軍云々というのもできれば便利程度で、それがメインだと信じるのはナイーブすぎます。
地球の裏側で戦争する軍隊が自衛隊を当てにして戦争しませんよ。それに米軍と共同運用するならば燃料はともかく、弾薬なども事前に搭載しておく必要があります。果たしてそういう細かいことまで米軍と詰めたかというと極めて怪しいと思います。

防衛省は既に造船会社に調査を依頼し、米軍機の搭載に向けた整備は可能だ、との報告を受けた。将来的に、航空自衛隊によるF35Bの運用も視野に入れている。

これも間抜けな話です。調べてみたら、いずもって空母としても使えるようですよ、奥さん(笑
調査させて、初めて空母として使えるとわかりました、と防衛省がこれ真面目に言っていたらタダの馬鹿ですよ。
わざわざ、調査させたのは単なるアリバイ作りですよ。これに無批判に載るというのは読売新聞のこの社説を書いた人間にはリテラシーがないということです。

ぼくが過去に報じてきたように、いずも級はそもそも建造後30~40年の運用を見据えて、V-22やF-35Bの運用も可能なような念頭に計画されました。そもそも「守るフネから守られるフネへ」がいずも級のコンセプトでした。

F-35も最大二個飛行隊は搭載できる(ただし運用は別)。これは関係者に取材しなくても分かるはなしです。
畏友、漢和情報センターのピンコフはいずもを歩測して、搭載可能機数を割り出しています。

ところが日本のメディアや識者(そして軍オタさんたちも)は当局を忖度してか、無知からか、あれは護衛艦=駆逐艦だ、空母では無いと断言していた人たちが多かったこと。ぼくはヘリ空母、多目的空母だといったら馬鹿扱いされました。馬鹿ほど自分が賢いと思って人様を馬鹿扱いするわけです。ぼくは内心ニヤニヤして見ておりましたが。

忖度や思い込みが激しい人ほど、誤った知識によって他人を激しく攻撃します。こういう人たちは大抵不治の病なので、ぼくは放置することにしております。

南西諸島には、空自が使える滑走路は那覇基地しかない。母艦があれば有事への即応性が高まるだけでなく、災害救援の拠点として活用することも期待できよう。

だから空母、というのは短絡ですよ。まずは米軍の基地や空港、下地島の滑走路だってある。これらを有機的に整備する方策を作るべきですよ。航続距離や兵装搭載量は陸上機の方が余程有用です。

空母のメリットは沖縄などからも離れたところで運用ができることです。例えば南シナ海を航行させてプレゼンスを示すこともなどもその範疇でしょう。また災害救援の拠点であればいずも級はいまのままでもOKでしょう。

加えて申せば空自の基地の多くは海沿であるわけで、であれば塩害に強いF-35Cの採用を何故真剣に検討しなかったのか、ということは大きな、問題です。C型はまた航続距離がより長く、また主翼が畳めるので、ハンガーが狭い空自の基地での取り回しも容易です。

単に政府の主張をそのまま載せるならばそれは新聞では無く、広報紙です。

■本日の市ヶ谷の噂■
沖縄に配備されたF-15Jは塩害対策で苦労し、稼働率も低下の傾向との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年5月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。