米朝首脳会談:在韓米軍の撤退はあるのか?

宇山 卓栄

在韓米軍公式サイトより:編集部

トランプ大統領の「指示」は本当か?

この数日、以下のような在韓米軍(2万8500人)の縮減・撤退に関する報道が乱れ飛んでいる。

○4月30日 文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官が「平和協定が締結されれば、陸海空全ての米軍兵士の韓国駐留に疑問が生じる」と述べる(アメリカの外交専門紙「フォーリン・アフェアーズ」の寄稿記事)

○5月2日 文在寅大統領は「在韓米軍は韓米の同盟関係に関する問題であり、平和協定とは一切無関係」と述べ、仮に朝鮮戦争の終結が決まった場合でも、在韓米軍縮減・撤退には繋がらないとした

○5月3日 米紙「ニューヨーク・タイムズ」は「複数の消息筋の話として、トランプ大統領が国防総省に在韓米軍の削減を検討するよう指示した」と報じる

○5月4日 韓国青瓦台はトランプ大統領が国防総省に在韓米軍の削減を検討するよう指示したとの報道について、「ホワイトハウスのNSC(国家安全保障会議)高官が事実ではないと明らかにした」と説明

今のところ、最新情報として、トランプ大統領の「指示」は事実ではないとNSC高官が韓国に説明したことが伝わっているのみで、ホワイトハウスから正式発表はない(5月4日現在)。

トランプ大統領は揺れている

「ニューヨーク・タイムズ」が報じたようなトランプ大統領の「指示」、つまり在韓米軍の縮減について、検討議題にされている可能性は充分にある。米朝首脳会談のための実務者協議において、在韓米軍の縮減・撤退はバーゲニング・チップになり得るのであり、協議の進展を受けて、それが具体的に検討されはじめたと考えることができる。

NSCをはじめとする関係筋の一部の強硬派は在韓米軍の縮減を検討することを妥協的態度であると憤慨し、内部情報をメディアにリークしながら、こうした動きを牽制しようとしているのかもしれない。

いずれにしても、この一連の騒動で読み取れることは米朝の実務者協議が一定の深度で進んでいるということだ。様々な条件交渉の中で、トランプ大統領は揺れている。トランプ大統領のここ数日のTwitterのコメントを見ても、強気と弱気が交錯している。

本来、北朝鮮の非核化は無条件に追及されるべきものであるが、現実の交渉の過程では、応酬の条件について、アメリカも考慮せざるを得ない。ただ、その考慮の範囲とレベルが一定の許容度を越えた時、内部から反発や軋轢が生ずる。「ニューヨーク・タイムズ」が伝えた在韓米軍縮減に関する報道は、こうした軋轢から漏れ出たものと考えられる。

どのように米朝交渉は妥結するのか?

今後、実際に在韓米軍が縮減されていくこともあり得る。縮減ならマシであるが、撤退ということもあり得る。マティス国防長官は「撤退の議論を排除しない」としている。

当然、北朝鮮や中国はそれを狙っている。4月の南北首脳会談後、中国は「環球時報」社説を通じて、「国際社会が北朝鮮に、核兵器が不要と実感させるような環境づくりをしなければならない」と表明している。これは在韓米軍が撤退するべきだということを示唆している。

中国の王毅外相は3日、平壌に訪れ、金正恩委員長と会談した。両者は「半島の平和を脅かす根源を取り除くために討議する」ことを確認した。彼らにとって、「脅かす根源」とはアメリカの存在であり、それを取り除いた上で、「朝鮮半島の非核化」の実現を目指すということだ。

この他、王毅外相は中朝の経済協力の強化を重ねて表明した。北朝鮮は中国と連携することにより、アメリカとの交渉を有利に進めようとしている。

現在、水面下で行われている米朝交渉が最終的にどのように妥結されるのかということについて、我々が想定する以上に思わしくないものとなる可能性が高まっているように思う。