大企業でずっと働いてきた中高年以後の人たちを見ていると、「この人はもはや独立不可能になっている」という印象を受けることが頻繁にある。自営業になるにしても法人を立ち上げるにしても、最低限度の法律知識や税務知識など、経営に必要な知識やノウハウが必須となる。
それ以前に、自分や従業員の食い扶持を自分で稼がなければならなくなる。
長年大企業で勤めている人たちが、このような知識やノウハウ、はたまた稼ぐ力をなくしてしまう理由は以下のようなものだと考える。
1 きちんと給料やボーナスを貰うことに慣れ切ってしまい、お金が入ってこなくなるという危機感がなくなる。
日々一定時間職場にいるだけで給料が貰えるので、必死で営業努力をしないと”食い扶持”がなくなるという実感がない。
表現は悪いが、「食い扶持は天から降ってくる」とでも錯覚しているかの印象を受ける。
2 大企業の年長者になると、事務的なことは大抵部下がやってくれる。
役員に昇格しても労働法や会社法のイロハも知らず、全部部下に任せっきり。
実務知識が全くないので、独立して会社を立ち上げて運営することができない。
3 日々のルーティーンの仕事に終始しているため、ITリテラシーが極めて貧弱な人が多い。
業種業態にもよるが、中高年層になるとアマゾンプライムすら知らない人が相当数いる。
大企業の中高年層に比べると、中堅中小企業の「番頭さん」のような立場の人たちは知識も豊富だしITリテラシーも高い。
部下の労務管理から、取引先との折衝、銀行からの資金調達、新分野への進出の検討など、すべてを1人(または少数)でこなさなければならない。
いきおい、会社の顧問弁護士や税理士などとも密に連絡を取り合って知識を蓄積している。
「この人は独立してもしっかりやっていけるだろう!」と感じるのは、大抵、中堅中小企業の幹部クラスの人たちだ。
大企業の幹部だった中高年の人々が、下手に起業をすると目も当てられない羽目に陥るケースが少なくない。
数人の相談を受けたことがあるが、「こんな知識もないのか!」と驚くのはまだマシな方で、ひどいケースだとグーグル検索すらできない。
「実務能力のある部下を雇うか、それが無理なら早々にたたんだ方がいい」とアドバイスするしかない。
柳川範之氏が40歳定年制が唱えられているが、40歳位が大企業を卒業するのに丁度いい年齢なのかもしれない。
大企業だと、40歳までに出世競争の最終結果が出ると言われている。その後も会社や関連会社が職を与えてくれればいいが、その保証はどこにもない。
大企業従業員として生活の安定を求めれば、独り立ちに必要なノウハウや緊張感は養えない。
とはいえ、自営業者や中小企業の経営者、はたまたその従業員たちのように、常に緊張感と隣り合わせで生活するのも厳しいところがある。
そういう事情を斟酌して、大企業も副業を解禁し始めたのだろう。
大企業従業員だけでなく中堅中書企業従業員も、副業をうまく活用して40歳で独り立ち卒業ができるようになれればいいのだが…。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年5月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。