トランプ米大統領は8日(米国時間)、ホワイトハウスで演説し、2015年7月に合意したイランとの核合意から離脱し、核合意で解除した対イラン制裁を再実施していく旨の大統領令に署名した。トランプ氏の決定は予想されていたことだが、米国のイラン核合意離脱は関係国に大きな波紋を投じている。以下、まとめてみた。
トランプ氏はイラン核合意が最悪の合意として早期離脱をこれまで何度か表明してきたが、8日の離脱表明に対し、国連、欧州連合(EU)、ロシアなどから失望と批判の声が挙がっている。
一方、イランのロハニ大統領は同日、「核合意を維持し、米国を除いた5カ国と合意内容を維持していくが、必要となればウランの濃縮活動を即再開する」と述べている。イランと対立してきたイスラエルとサウジアラビアはトランプ大統領の決定を「勇気ある正しい決定だ」(イスラエルのネタニヤフ首相)として歓迎している。
トランプ氏は、「核合意はイランの核開発計画を停止させるのには適したものではない。合意は最悪で一方的な内容だ。本来合意すべきものではなかった。核合意は平和をもたらさなかった」と説明し、「米国は今後、最大級レベルの対イラン経済制裁を実施していく。イランが核兵器開発に乗り出すならば、これまで経験しなかったような事態に遭遇するだろう」とテヘラン当局に警告を発した。
トランプ米大統領はイラン問題では核開発だけではなく、中距離弾道ミサイルの発射実験や国際テロ活動の支援にも言及し、「イランは核合意する一方、ミサイル開発を継続している。シリアとイエメンでは武装闘争を支援している。オバマ前政権は核合意後、イランがより開かれた社会になるだろうと予想したが、実際はその逆だった」と指摘、強い警戒心を示してきた経緯がある。
核交渉はイランと米英仏中露の国連安保理常任理事国に独が参加してウィーンで協議が続けられてきた。そして2015年7月、包括的共同行動計画(JCPOA)で合意が実現した。
核合意の内容は、①イランは濃縮ウラン活動を25年間制限し、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置く。具体的には、遠心分離機数は1万9000基から約6000基に減少させ、ウラン濃縮度は3・67%までとする(核兵器用には90%のウラン濃縮が必要)、②濃縮済みウラン量を15年間で1万キロから300キロに減少、③ウラン濃縮活動は既にあるナタンツ濃縮施設で実施し、アラークの重水製造施設は核兵器用のプルトニウムが製造出来ないように変え、フォルド濃縮関連施設は核研究開発センターとする、④イランがその合意内容を守れば、経済制裁を段階的に解消し、違反した場合、経済制裁を再度導入する、といった内容だ。
なお、核合意は正式には国際法上の協定ではないが、国連安保理が決議案(2231)を採択し、承認されたことを受け、拘束力が付与された。
スティーヴン・マヌーチン米財務省長官は、「対イラン制裁再導入まで90日から最大180日間の猶予期間を設ける。その間にイランとビジネスを実施してきた企業はその活動を停止する。イランとの新たな商談は即処罰対象となる」という。
EUのフェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表はトランプ氏の核合意離脱決定に大きな懸念を表明。メルケル独首相、マクロン仏大統領、メイ英首相は共同声明を公表し、国際合意の遵守への責任を喚起する一方、テヘランに対しては対等の関係で核合意を遵守していく方針を明らかにした。
独週刊誌シュピーゲルによると、ドイツ、フランスと英国3カ国の約500人の国会議員は米議会宛てに書簡を送り、「イランは核合意を遵守している」と指摘、トランプ大統領の核合意離脱を阻止すべきだと訴えてきた。
ちなみに、イスラエルのネタニヤフ首相は4月30日、テルアビブの国防省で、イランが核兵器開発計画を有していたことを証明する文書を入手したと発表し、トランプ大統領の核合意離脱を後押ししたばかりだ。
JCPOAの内容を検証するIAEAはイランの核合意の履行状況を現地査察を通じて3カ月ごとにまとめ、加盟国に報告してきた。天野之弥IAEA事務局長は3月の理事会で、「イランはJCPOAを遵守している」という内容の報告書を提出したばかりだ。
イスラエルが公表した新たな証拠文献入手報道については、IAEA広報官は1日、「イランが2009年後、新たな核開発計画を有していることを示す信頼できる証拠はない」と説明している。
米国のイラン核合意離脱決定の影響としては、①米国の信頼を落とす、②国際条約への信頼性がなくなり、③北朝鮮との非核化協議にもマイナスの影響、④米国と欧州の間のさまざまな連携に支障をもたらす、などが挙げられている。
なお、トランプ大統領の核合意離脱決定に対し、イランは強硬姿勢を見せる一方、他の5カ国との合意を守る姿勢を維持している。その理由として、①イランの国内経済が低迷し、通貨も下落。西側の制裁解除が不可欠、②イラン国内の強硬派が米国の核合意離脱を穏健派ロハニ大統領への攻撃チャンスと受け取る危険性があることから、米国抜きでも核合意を維持したい、等が考えられる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年5月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。