一斉授業か学習者中心か

教育社会学の本を読み直しているんだけれど、バーンステインの研究がおもしろい。
ざっくりぼくなりに説明してみます。

バーンステインは、幼児教育には2つのタイプの教育方法があることを指摘しました。

①いわゆる古典的な教育モデル。一斉指導の厳格なモデル。
②子どもの主体性が重視される教育方法。

そして①を目に見える教育方法、②を目に見えない教育方法としました。
そりゃー②がいいよね。アクティブ・ラーニングの時代だし、ってぼくたちは思ってしまいがちです。

ここからが社会学のおもしろいところで、
実は②の教育方法は中産階級の子どもたちは適応しやすく結果として成功しやすいが、一方労働者階級の子どもたちは、仕事と遊びが厳格に区別されない学び方には前者ほど適応できずに、結果として格差を開く、というのです。

これが直ちに今の日本の状況に当てはめられるかどうかは、慎重であるべきですが、持っていてよい視点であると考えています。

この結果は②の学び方を大切に実践してきた人にとってはザワザワしますよね。ぼくもその一人です。
しかし、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップ、単元ない自由震度学習、学びの個別化等を長年実践してきたぼくとしては、実感としてバーンステインの指摘に納得できます。

雑なアプローチでは間違いなく差が開く。任せるという名の丸投げや、サポート不足、そしてその結果を学習者のせいにする、みたいなことって実は散見されます。

かつて、愛知県の緒川小学校は、学習の個別化・個性化で一世を風靡しました。ぼくも大学時代に緒川小に触れ、感動した。しかし後年、緒川小にも同じような批判があったようです。結果として格差が広がったのではないかと。
緒川小のようなオープン教育はいまやずいぶん下火になってしまいました。

ほら、やはりビシビシと一斉授業で鍛えた方が良いのだ。そんな声も聞こえてきそうです。
ではやはり①がよいでしょうか。

いや、これは実は、苫野一徳のいう、問い方のマジックです。

どちらが良いのか、という問いを立てると、ぼくたちはつい「どっちか」と考えてしまいます。これは問いが良くないのです。
①か②かではない。

「子どもの主体性を重視した教育法で、なおかつ格差を縮小していいくには?」

ぼくはこういう問いを立てたい。

なぜか。

公教育とは、各人の「自由」および社会における「自由の相互承認」の力能を通した実質化であり、すべての子どもに「自由の相互承認」の感度を育むことを土台に「自由」に生きるための力を育むことを目指すからです。

教育方法において、なぜ子どもの主体性が大事か。「自由に生きるための力」を育むには、安心・安全が守られている環境で、自由を使ってみること、試行錯誤してみることが重要だからです。かといって、その結果として格差が生まれてしまうのであれば、これは一般福祉の原理に反します(一般福祉の原理=自由の相互承認の原理に基づく限り、教育政策は、一部の人だけの自由の実質化ではなく、すべての人の自由の実質化に寄与する限りにおいて正当性を持つ)。

もちろん力能を育むために、一斉授業が有用な場面もあるでしょう。公教育の原理に照らしてそう考えられる場面では、そうすべきです。どちらか、という問題ではないのです。

実は先に挙げた、ライティング・ワークショップ、リーディング・ワークショップは、学習者主体でありながら、先生がひとり一人の学びに寄り添い、ひとり一人の成長に責任を持つアプローチです。先生の専門性も問われますし、先生自身が学び続けることが重要です。「学習者には力がある」という前提にたった素晴らしいアプローチだからこそ、その学び方を生かすために実践者自身が学び続け、磨き続ける必要があります。

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だがしかし、PBLや、協同学習、アクティブ・ラーニングという言葉に、なんとなく踊って、活動していればオールオッケーみたいな状況が広がってしまったら、バーンステインの指摘通りのことが今の日本にも起きる可能性はあると思います。

新しい指導要領はそのあたりも視野に入れて書かれているんですよね。


編集部より:このブログは一般社団法人「軽井沢風越学園」設立準備財団副理事長、岩瀬直樹氏のブログ「いわせんの仕事部屋」2018年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩瀬氏のブログをご覧ください。