イスラエルは14日、建国70年目を迎えた。世界のディアスポラ(離散)だったユダヤ人は1948年、パレスチナに結集し、イスラエル国の建国宣言をした。
その後、追放されたパレスチナ民族の帰還問題が中東情勢を揺り動かす台風の目となってきたが、ここにきてユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の世界3大唯一神教の発祥の地・中東は再び一触即発の状況に直面している。
中東情勢を再び緊迫させた直接の契機は、
①トランプ米大統領が昨年12月6日、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転すると発表、イスラエルの首都をエルサレムとする意向を表明
②トランプ大統領は今月8日、ホワイトハウスで演説し、2015年7月に合意したイランとの核合意から離脱し、核合意で解除した対イラン制裁を再実施していく旨の大統領令に署名
③イスラエル軍は今月10日、イラン軍が9日夜、イスラエル北部の占領地ゴラン高原(1967年併合)に向けてロケット弾やミサイル約20発を発射したこと受け、報復としてシリア内のイランの軍事拠点50カ所以上をミサイル攻撃したこと
などが挙げられる。
イスラエル建国70年を前に、米大使館のエルサレム移転でイスラエルとパレスチナ間で再び、緊張が高まる一方、イスラエルとイラン両国関係には軍事衝突の危機が差し迫ってきた。ネタニヤフ首相は2月18日、ミュンヘンで開催された安全保障会議(NSC)で「わが国は必要ならばイランを攻撃することに何も躊躇しない」と強調している。
シーア派の大国イランはシリアのアサド政権を軍事支援し、レバノンではヒズボラを支援、イエメンでは反体制派武装勢力「フーシ派」を支援し、スンニ派の盟主サウジアラビアを激怒させている。イスラエルの周辺で軍事活動を強めるイランの存在はイスラエルにとって最大の軍事的脅威であることは疑いない。
ところで、両国の歴史を紐解くと、両国は常に対立してきたわけではない。イスラエルとイラン両国の関係は現代史に限定すれば犬猿の仲だが、ペルシャ時代まで遡ると、異なる。現在のイラン人は「地図上からイスラエルを抹殺する」(マフムード・アフマディネジャド前大統領)と強迫するが、同じ民族の王が約2550年前、ユダヤ人を捕虜から解放した。ペルシャ王がユダヤ民族を救済したのだ。
ヤコブから始まったイスラエル民族はエジプトで約400年間の奴隷生活後、モーセに率いられ出エジプトし、その後カナンに入り、士師たちの時代を経て、サウル、ダビデ、ソロモンの3王時代を迎えたが、神の教えに従わなかったユダヤ民族は南北朝に分裂し、捕虜生活を余儀なくされる。北イスラエルはBC721年、アッシリア帝国の捕虜となり、南ユダ王国はバビロニアの王ネブカデネザルの捕虜となったが、バビロニアがペルシャとの戦いに敗北した結果、ペルシャ帝国下に入った。そしてペルシャ王朝のクロス王はBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還させたのだ。
イスラエルのユダヤ教の発展は、ペルシャで奴隷の身にあったユダヤ人に対し、クロス王がユダヤ人の祖国帰還を許してから本格的に始まった。繰り返すが、クロス王が帰還を許さなかったならば、今日のユダヤ教は教理的にも発展することがなかった。
次に、「エルサレム問題」を振り返ってみる。エルサレムは1947年の国連決議に基づき、東西に分割され、西エルサレムはイスラエルが、東エルサレムはヨルダンがそれぞれ管理することになっていた。しかし、イスラエルは6日戦争で勝利し、ヨルダンから西岸ヨルダン、東エルサレム、ガザ地区を、エジプトからシナイ半島、シリアからゴラン高原を奪った。ダヤン国防相(当時)は嘆きの壁の前で、「分断されたエルサレムが再び統合され、われわれの聖地が取り戻された。今後は決して失うことはない」と述べた。
その後、国連安保理が東エルサレムのイスラエル併合を無効と宣言し、今日に至っている。なお、イスラエル国会は1980年、完全で統合されたエルサレムをイスラルの首都とすることを記述した通称「エルサレム法」を採決している。
「エルサレム問題」は、政治的観点からだけではなく、その宗教的背景を考慮して3宗派の統合を図るべきだ。預言者洗礼ヨハネは、「自分たちの父にはアブラハムがあるなどと、心の中で思ってもみるな。お前たちに言っておく、神はこれらの石ころからでも、アブラハムの子を起こすことができるのだ」(「マタイによる福音書」第3章9節」と諭している。エルサレムを管理する者は神の前に謙虚でなければならない、という意味だ。その内容を現代に当てはめるとすれば、「イスラエルは自分たちの背後にトランプ米大統領がいるなどと奢ってはならない」ということだ。
「イスラエルが失った国を再建する時、イエスが再臨する時期を迎える」という預言が久しく囁かれてきた。そのイスラエルが建国されて70年を迎えた。エルサレム問題、パレスチナ人帰還問題、そしてイスラエルとイラン両国関係、スンニ派盟主サウジとシーア大国イランの対立など、中東情勢は今、危機に瀕している。
砂漠の地で派生したユダヤ教、キリスト教、イスラム教を信奉する国々は今こそ、信仰の祖「アブラハム」に立ち返り、共栄共存の道を模索すべき時だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年5月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。