ドル円は110円の壁を突破できるのか

外為市場での円の動きについては、ドルやユーロに対して円が買われた際を円高、反対に円が売られた際を円安と呼んでいる。ただし、例えば円安が進み、ドルは円に対して売られドル/円(以下、ドル円)は110円台をつけたとニュースなどでは報じられる。しかし、数字上からみると例えばドル円が109円80銭から110円台に上昇することを円安が進行すると表現することになり、数字の高い安いという方向性と言葉の表現が異なることになる。このため個人的には、円安ではあるものの、あくまで円に対するドルの価値として、ドル円は110円に上昇したとの表現を使っている。

これについては債券の利回りと価格の表現も同様に混乱してしまうものではある。債券の場合は、利回りをベースに見ることになるため、債券は売られ10年債利回りは上昇したとの表現となる。このあたり、多少の慣れも必要なところとなる。それはさておき、ここにきてドル円が110円手前で足踏み状態にある。

東京時間外でドル円は110円を超す場面はあったが、東京時間ではいまのところ110円は突破していない。だからといって、ここでドル円がピークアウトして、下落トレンドに転じたわけでもなく、109円台でのもみ合いとなっている。

ドル円が動く理由としては、いろいろな要因が絡み合うが、為替を動かしている市場参加者がどの要因に比重を置いて見ているのかを捉える必要がある。政治なのか物価なのか、特定の経済指標なのか、中央銀行の動向なのか、株や債券の動きなのか。

いまのドル円の動きをみると、とりあえず北朝鮮の問題はリスク回避からの状況から、その後巻き戻しに転じ、ドル円にとっての売り要因(円高)から、買い戻し(円安)の要因とされた。米朝首脳会談が大きなイベントとなるが、ドル円の買い戻しの動きはとりあえず一巡した可能性はある。

ここにきてドル円を110円近くまで押し上げたのは、米国の長期金利の上昇による影響が大きい。日本の長期金利がほぼ固定されているので、米長期金利の上昇による日米金利格差の拡がりによってドル円も買われたとの見方ができる。その米長期金利が3%台に一時乗せたものの、3%が壁のようになり、いったん跳ね返され、ドル円も同様に110円が壁となったようにみえる。

米長期金利の上昇の背景としては、FRBの正常化に伴う利上げもあるが、これは相当程度織り込んでおり、利上げが加速されるのかどうかが焦点となっている。いまのところFRBが利上げを急ぐような姿勢は見せていないが、市場は年4回の利上げを織り込みつつある。

そして、注意すべきは原油価格の動向となるのではなかろうか。WTIは70ドル台に上昇し、この原油価格の上昇に伴う物価上昇観測が、ここにきての米長期金利の押し上げ要因のひとつとなっている。それがドル円の押し上げ要因ともなっていた。このため、このままWTIが70ドルを大きく超えて80ドル台に向けて上昇してくるとなれば、それをひとつのきっかけとして米長期金利が3%の壁を大きく抜けて、ドル円も110円の壁を大きく抜けて可能性が出てくる。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年5月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。