kWとkWhはどう違うの?

池田 信夫


東京新聞が「全電源、自然エネにできる」という小泉元首相のインタビューを掲載し、それに関西電力の公式サイトが突っ込んでいます。2040年に再エネが66.3%になるという予想は常識で考えてもおかしいと気づくはずですが、東京新聞は気づかなかったんでしょうか。

脱原発へ“意気軒昂”(昨年11月、山口の講演で:YouTubeから編集部)

この左側の数字はkW(キロワット)ベース、つまり最大限どれだけ発電できるかという能力です。再エネは電力のデコボコが多く、たとえば太陽光発電所は夜はまったく発電できないので、実際の発電量はこの1割ぐらいです。それが右側の発電量の実績の数字、つまりkWh(キロワット時)です。

kWhというとよい子のみなさんにはむずかしいでしょうが、電力×時間です。たとえば100万kWの原発を3時間うごかしたら、300万kWhになるわけです。最大発電量1万kWのメガソーラーが100基あっても、その1割しか動かないと、1万×100×0.1=10万kWhだから、3時間で30万kWhにしかなりません。この違いがわからないで「1万キロワットのメガソーラー100基で原発1基分」などと報道するマスコミがいまだに多いのは困ったものです。

では実績ベースのkWhで、再エネはどうなるでしょうか。次の図はEIAの予想した世界の電力消費量ですが、2040年で再エネは発電量の約3割、石炭や天然ガスとほぼ同じです。それでも今の2倍近いですが、アメリカのように広い土地のない日本ではそこまで行かないでしょう。

きょう出た新しいエネルギー基本計画の素案では「再エネを主力にする」としていますが、再エネ比率を2030年に22~24%にするというこれまでの目標は変わっていません。これが最初の図の右側ですが、実現できるかどうかはわかりません。今の固定価格買い取り制度(FIT)をやめると、再エネへの投資は大きく減るでしょう。

再エネが増えるのはけっこうなことですが、小泉さんのいうようにそれで100%まかなうことはできません。電力は蓄積できないので、蓄電池が必要だからです。蓄電コストは発電よりはるかに高いので、再エネ+蓄電池ですべての電力をまかなうには、蓄電コストが今の1/28にならないといけない、というのがエネルギー情勢懇談会の計算です。

電気代は、貧乏人も払わないといけない「税金」です。問題は「原発ゼロ」にするかどうかではなく、経済性とともに地球温暖化も含めた環境リスクを考えて、社会的コストを最小にすることです。元首相がこんな簡単なかけ算もわからないのは困ったものですが、わかった上で彼を利用している人々が悪いと思います。