5月25日から28日にかけて、欧州の債券市場では、いわゆる中核国と呼ばれるドイツ、フランス、オランダなどの国債が買われたが、周辺国と呼ばれるイタリア、スペイン、ポルトガルなどの国債は売られた。この背景にあるもののひとつが、イタリアやスペインの政治情勢である。
米格付け会社のムーディーズは25日に、イタリアのソブリン格付け「Baa2」を引き下げ方向で見直すとの方針を明らかにした。その理由として、イタリアの次期政権が歳出拡大に走る可能性を指摘した(ロイター)。
イタリアでは、ポピュリズム(大衆迎合主義)政党の「五つ星運動」と反移民を掲げる「同盟」が連立政権樹立に向けた政策で合意したものの、2党が選んだユーロ懐疑派の財務相候補の起用をマッタレッラ大統領が拒否し、ポピュリスト2党の指導者は組閣を断念した。五つ星のディマイオ党首はムーディーズの格下げが組閣を妨害したと批判し、また、大統領を弾劾する提案を検討していると指摘している。「同盟」のサルビーニ書記長は謀略の存在をほのめかし、再選挙を事実上呼び掛けたそうである(ブルームバーグ)。
これにより、イタリアでは大統領とポピュリズム2党の対立色が強まったことで、政治的な混迷が一段と深まった。さらに再選挙となれば、ポピュリズム政党が勢力を一段と拡大させる懸念も強まり、市場ではリスク回避の動きを強めた格好になった。
そして、スペインではラホイ首相の元側近が汚職事件で有罪判決を受けたことを踏まえ、最大野党の社会労働党がラホイ首相に対する不信任決議案を提出した。ラホイ首相は25日、不信任決議案を否決に持ち込み、4年の任期を全うする考えを示したが、先行き不透明感は強まりつつある。ラホイ首相に対する不信任決議は6月1日に採決される見通しで、解散総選挙が実施される可能性も出てきた。
さらにECBが24日に公表した4月26日の理事会の議事要旨によると、ユーロ圏は成長がさらに減速する恐れがあるとの指摘があった。これもユーロ圏のリスク回避の動きの要因となっていた。ユーロ圏の景気減速の背景としては、昨年後半の急成長の反動に加え、トランプ政権による保護主義の影響を受ける恐れも指摘されている。イタリアやスペインの政治情勢の不透明感なども今後、景気の足を引っ張る懸念も出てきた。
さすがに2010年のギリシャ・ショックのようなことが起きることは考えづらいが、ここにきて不安要因がいくつか重なって出てきたことにも注意する必要はありそうである。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年5月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。