決算資料でテレビ局経営を大解剖 〜 CM収入編

先ごろ出揃った在京キー局各社の2017年度決算資料に載っている各社の年度平均視聴率やタイム収入、スポット収入、番組制作費などを用いて、現在のテレビ局、テレビメディアの状況を分析する2回目です。

1回目「決算資料でテレビ局経営を大解剖 〜視聴率編〜」

大きな流れを見ると、昨年度2017年度は、2009年度以来ずっと増加を続けていた視聴率1%当たりのCM収入がついに下落に転じるというターニングポイントとなる年だったと言えます。

CM収入は視聴率とすぐには連動しない

CM収入とは、タイム収入とスポット収入の合計値です。
タイム収入とは、番組の提供スポンサーが流すタイムCMによる収入のこと。
スポット収入は大雑把に言って番組と番組の間に流れるスポットCMによる収入のことです。
このタイム+スポット収入=CM収入がテレビ局にとっては最も大きな収入源になります。
(グラフ⑤ 単位:百万円)

各局とも、2005年度のピークからリーマンショックの影響を受けた2009年度まで急激にCM収入が下がっていきますが、そこから先は局によってかなり異なります。
フジテレビは視聴率と同様、CM収入でもダントツにトップでした。フジテレビの視聴率が急落したのは前回ポストのグラフ②で説明しましたが、それに比べるとCM収入の方はなかなか減りません。

(グラフ②:縦軸の最小値を0.0%に変更)

  • G帯視聴率の1位の座を日本テレビに明け渡したのが2011年度、しかしCM収入が2位になったのはその3年後の2014年度です。
  • またG帯視聴率がテレビ朝日に抜かれたのは2012年度ですが、CM収入が逆転したのは5年後の2017年度です。
  • さらに2015年度にはTBSにも視聴率を抜かれますが、いまだにCM収入はフジテレビの方がかなり上です。

このようにテレビ局のCM収入は視聴率の影響を強く受けるものの、視聴率の変化よりかなり遅れて反応する特性があります。視聴率より視聴率シェア(前回のグラフ③)に反応するのかもしれません。
ということはフジテレビやテレビ朝日のCM収入はこの先さらに下落してしまうかもしれず、日本テレビやTBSは今後、増えていくのかもしれません。

視聴率1%当たりのCM収入の不思議

ところでこの各社のCM収入を合計するとテレビ業界全体の勢いが見えてきます。そしてそれを視聴率と比べると不思議な現象が起きているのがわかります。

下のグラフは、在京民放キー局5社のCM収入合計と全日視聴率合計の変化を表したものです。いずれも2005年度を1として、それがその後どう変化したかを表しています。
(グラフ6)

一目見てわかりますが、視聴率は下がり続けているのに、CM収入は2009年度までに急落した後は徐々に回復し、この4年ほどはほぼ均衡状態です。

CM収入の変化は視聴率の変化より遅れて起きるとはいっても、これは不思議です。視聴率は下がっているのにCM収入は下がらない、そこで単位視聴率当たりのCM収入はどうなっているのかを見てみましょう。

視聴率1%当たりのCM収入は異常なハイレベルに

それをグラフ化したのが次のグラフ⑦です。広告費は景気に連動すると言われているので、名目GDPの変化も入れてみました。赤い折れ線が「全日視聴率1%当たりのCM収入」、グレーの折れ線が名目GDPで、これらも2005年度を1としてそれがどのように変化したかを表しました

(グラフ⑦)

「視聴率1%当たりのCM収入」は、2006年度にピークをつけた後、リーマンショックで急落し2009年度に底をつけます。しかしその後、2010年度以降は7年間に渡って視聴率の下落など関係ないとばかりに上昇を続けました。

そして2014年度にはかつてのピークである2006年度に並び、さらに上昇しました。2016年度には異常ともいえる高い水準に達していました。そしてようやく昨年度(2017年度)、若干下がりました。

景気に連動するCM収入のはずだが…

異常ともいえる「視聴率1%当たりのCM収入」の上昇はなぜ起きているのでしょう。広告費は景気に連動するといわれているので、名目GDPの変化と比べてみました。すると名目GDPと「視聴率1%当たりのCM収入」の変化は明確に連動しているのがわかります。

ところが2017年度は、名目GDPは上昇しているにも関わらず、「視聴率1%当たりのCM収入」が下がりました。8年間続いていた上昇がついに終わり、景気との連動が途絶えたのです。

テレビはオワコンだ、などという記事が雑誌やネットメディアでは何度も書かれてきました。しかしテレビ広告の市場規模は減るどころか少しずつ膨らんできました。グノシーやスマートニュースなどのスマホのニュースキュレーションサービスは、今でもテレビでCMを打っています。そしてCMを打った後のアプリのダウンロード数は確実に増加するそうです。ネット企業も、オワコンであるはずのテレビの広告を頼りにしているのです。

多くの人に一気に認知してもらうリーチ力では、ネットはテレビには逆立ちしても敵いません。そうしたテレビの広告媒体価値が見直されてきたのが、「視聴率1%当たりのCM収入」の異常な高騰として現れていたのでしょう。

しかしそれもついに減少に転じました。もちろん今年度の2018年度には、もしかするとまた上昇するかもしれません。いずれにしても今年度はキー局各社のCM収入がどう変化していくのか、四半期ごとに公表される決算短信が注目していきます。

テレビ広告費がインターネットに抜かれるのは来年?

視聴率1%当たりのCM収入が2006年度の水準より高いという不思議について説明しましたが、では2006年度のテレビ広告の勢いがどれくらいなのかを、テレビ広告費の長期間の変化で見てみます。

これは決算資料ではなく、電通が毎年発表する日本の広告費という統計データから4マスメディアとインターネットの広告費の推移をグラフ化したものです。

(グラフ⑧ 単位:億円)

横軸は年度ではなく暦年なので、年度別のデータである視聴率やCM収入のグラフとは直には比較できないのですが、全体の傾向は掴めます。

インターネット広告費が2003年以前は点線にしてあるのは、2004年度から計算方法が変わったのでデータの継続性がないためです。衛星メディアは、2004年度以前はデータがないので、2005年度から表示してあります。

テレビの広告費が2兆円を超えたのは、1997年、2000年、2001年、2004年、2005年、2006年です。2006年はテレビCM収入が最後に輝いた年になります。

ですから、その2006年度よりさらに高くなった2016年度の「視聴率1%当たりのCM収入」が、いかに異常かがわかります。

2010年以降しぶとく頑張っているテレビ広告費ですが、急激に増加しているインターネット広告費が急迫しています。

テレビ広告費がここ数年と同じレベルで推移し、インターネット広告費が同じ程度の増え方を続けると、来年、2019年にはついにテレビを逆転するかもしれません。これまでは逆転は2020年といわれていたのですが、インターネット広告の伸びが加速しているため、1年前倒しになる可能性が出てきたのです。

テレビ局の無料動画広告費はどこにも入っていない

ちなみに、TVerやテレビ各局の動画配信サービスでの広告費は、この「日本の広告費」では地上波テレビにもインターネットにも加算されていません。まだ額が小さすぎて影響がほとんどないせいもありますが、統計上、地上波テレビの広告費に入れるのか、インターネット広告費に入れるのかが確定していないためだそうです。

ここまでキー局のCM収入を分析してきました。
次回は、各局の番組制作費と視聴率、CM収入の関係を分析してみます。

前回「決算資料でテレビ局経営を大解剖 〜視聴率編〜」


編集部より:この記事は、あやぶろ編集長、氏家夏彦氏(元TBS関連会社社長、電通総研フェロー)の2018年5月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はあやぶろをご覧ください。