「財務省幹部ら全員不起訴」:今こそ落ち着いた検証を

高幡 和也

文書改ざん問題の舞台になった森友学園の小学校予定地(当時、Wikipediaより=編集部)

先月31日、大阪地検特捜部は決裁文書改ざん(虚偽有印公文書作成など)や国有地売却に関する背任などすべての告発容疑について、前国税庁長官や同省の幹部ら38人全員を不起訴とした。怒りの声が聞かれる一方で、予想どおりとの声も聞かれる。いずれにしてもここでもう一度、国有地処分の在り方をしっかり落ち着いて検証すべきだろう。

あらためて言うが、森友問題とは「国有地処分が適正に行われたかどうか」が問われた事案である。問題追求の過程で、決済文書の書き換えの事実が発見されたり森友学園の元理事長らが詐欺容疑で逮捕されたこと、さらには野党とマスコミが「権力の不正な関与」疑惑の追求に偏重したために、本来最初に明らかにすべきだった本件の、「手続きの瑕疵の有無」、「随意契約の問題点」、「処分の意志決定に関するプロセスの開示」等、国有地処分の仕組みを質すという意識が希薄になってしまったのではないだろうか。

この問題の原点は、学園用地の価格が当初評定価格から約8億2000万円値引きされ処分されたことだ。この「なぜそうなったか」についての答えを「総理及び総理夫人が関与したから」で帰結させてしまうので議論がかみ合わない。

そもそも 国有地の処分において「減額」や「評価の見直し」自体は違法ではないし不適切なものではない。 国は国有地の処分についての優遇措置(減額譲渡や減額貸付など)を明確に定めているのだ。

例えば未利用国有地を特定の施設に供する場合にこの優遇措置が用いられるのだが、その特定施設には道路、公園、病院、そして「学校」などが含まれる。(※参考「国有財産特別措置法の規定により普通財産の減額譲渡又は減額貸付けをす る場合の取扱いについて」

さらに財務省の国有財産評価基準によると、その第3章「評価の特例」では以下のような定めがある。

財務局長が、特別の事情により緊急に評価を行わなければならない場合等、第2章により処理することが適当でないと認める場合等には、国の職員が下記第5の規定に基づく方法により評定価格を求めることを妨げない。

(※算式等参照   評価の特例 取扱方針2 緊急を要する場合等の取扱い

もう一度言うが国有地処分における減額や評価の見直し自体は違法ではないし不適切なものではないが、もしこれらの「仕組み自体」が、不当な圧力で恣意的に運用出来うるならばまずはその仕組みを「恣意的に運用出来ないものに変える」ことが肝要なのではないだろうか。

昨年2月に報道されて以降、せっかくここまでこの問題に時間を費やしたのだから、この事案は国有地処分がさらに適正に、円滑に行われるためのロールモデルづくりに役立てるべきだろう。すでに財務省では会計検査院から指摘されたこと受け、国有地処分が随意契約で行われたものについてはすべての契約の売却価格を公開することなどの方針を決めている。
(※参考 財政制度等審議会国有財産分科会「公共随契を中心とする国有財産の管理処分手続き等の見直しについて」

森友問題はここに至るまで約1年半を有したが、これまで見えづらかった公共随意契約における行政裁量の在り方やその可視化が問われる契機になるとすれば、この約1年半という長い時間は無意味ではなかったのかもしれない