独週刊誌シュピーゲル(5月26日号)の科学欄に非常に興味深い記事が紹介されていた。記事のタイトルは「ドクター・アルゴリズム」(Doktor AlgorIThmus)だ。デジタル医学への未来を展望した内容で、シリコンバレーに拠点を置くITの多国籍テクノロジー企業グーグルやアップル、そしてフェイスブック、ネット通販大手アマゾンなどが将来を見越して生物技術、健康分野のハイテク系スタートアップ(Start -up)企業にぞくぞくと投資しているという話だ。近未来のサイエンスフィクションを読んでいるような興奮を覚えた。
それらのハイテク系スタートアップ企業が成果をもたらすまでには時間がかかるだろうが、対象が人間医学であり、健康問題だけに、その成果が注目される。IT大手企業にとって生物医学分野こそ次のフロンティアというわけだ。
例えば、血液検査で初期段階のがん細胞を発見でき、人間にミニセンサーを入れ、人体の全ての機能を24時間監視し、問題が生じれば即対応できるようにする。その結果、人間の寿命は延命される。がんの初期発見だけではなく、鬱など精神病に対しても新しい治療法が見つかるものと期待されている。
未来の医学の成果のカギを握っているのはデータだ。ミニ・センサーを人体に入れ、医者が診断できない体内までデータを集める。文字通り、ドクター・アルゴリズムの活躍舞台だ。そして可能な限りの患者の健康に関するビッグデータ、人間の遺伝子学的、分子学的、心理学的な情報をデジタル化する。それを通じて、「健康な人間とは」の定義が明らかになり、同時に、初期警告システムを構築できるわけだ。
グーグルは5年前からがんと鬱対策への新しい治療方法を見出すために生物学、化学、情報学、機械製造など各分野からトップ級の人材を集め、生物センサー、医学ロボット、新薬などの開発に乗り出している。また、シリコンバレーのエリートたちは人間の老化現象を分析し、細胞老化を防ぎ、人体を常に最高状況に維持する道を模索するバイオエイジの研究に強い関心を注いできた。アマゾンの創設者ジェフ・ベゾス氏もバイオエイジ研究に投資している一人だ。人類が久しく願ってきた「不死の世界」への挑戦だ。
科学者たちは、DNAシークエンシングマシーンなどで迅速に遺伝素質を解析できれば、例えば、がん細胞の初期段階前にそれを認知できるようになる、と期待している。その分野の最先端を走っている民間最大の生物スタート・アップ企業、Grails社にはグーグル、アマゾン、そしてビル・ゲイツ氏らが巨額の投資をしている。
また、フェイスブック創設者のマーク・ザッカーバーグ氏は「ヒト細胞アトラス」の作成のために30億ドルを投資している。人体の全ての細胞を分類化することで新薬の開発を目指しているわけだ。スタンフォード大学の人材とシリコンバレーのIT関連企業の投資が連携して生物医学の分野をリードしてきている。
ハイテク系の新しいスタートアップ企業が次々と生まれてきている。これまで考えられなかったことまで可能となる時代が近くまできた。デジタル化した医学を通じて「健康な人体」の定義は一層明確になるだろうが、同時に、「人間は何のために生きるのか」についてもやはり明確な答えがこれまで以上に問われてくるだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年6月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。