農林省レビューで見えた成果指標のあいまいさ

山田 肇

6月15日に農林水産省行政事業レビュー公開プロセスが実施された。8つの事業が取り上げられ、朝から晩まで時間はかかったが、共通して見えてきたのは成果指標の設定があいまいという問題だった。

ニューヨークでのプロモーション

「廃止」と判定された事業

同省は農林水産物の輸出促進対策を実施しているが、本来、生産者が実施すべきプロモーション活動への支援の必要性について疑問が出た。最近、農産物の新品種が多く誕生して国内市場の取り合いをしているのに、輸出についてはオールジャパンで団結できるというのは不思議である。輸出額の増分を成果指標としているが、輸出は自然増が続き、また地方公共団体も輸出振興に取り組んでいるので、この事業単独の成果とは言えない。政府は相手国の輸入規制(たとえば検疫)制度の改善取り組むべきという意見もあった。

「事業全体の抜本的な改善」と判定された事業

農林水産省は国際協力活動としてアフリカにおける地産地消の普及活動、ベトナム・ミャンマーでの農業生産性向上等の技術指導などに取り組んでいる。しかし、今の成果指標では事業の成否が判定できない。たとえば、地産地消普及活動地域で新しい農産物加工品が毎年3点生まれるというのはよい成果目標なのか、農産物加工品数は適切な成果指標なのか。日本の協力に刺激されて自ら地産地消の活動を起こす地域が生まれたか、というような成果指標を採用すべきではないか。

耕作放棄地などを借り受けて大規模に農業を営む農業者(担い手)に補助する事業も俎上に載った。最大の問題点は、支援によって担い手の経営力がどれだけ強化されたかが評価されていない点。同省は売上1割拡大、コスト1割削減、付加価値1割向上などを挙げているが、それが適切かはっきりしない。

「漁業収入安定対策事業」は、漁獲高の変動による収入減を補う共済事業について掛金を補助するもの。掛金への補助は70%に達し、農業者共済制度の50%に比べて過大である。また、この事業の対象者となるには資源管理計画を履行する必要があるが、それに関する成果指標が設定されていない。

農林水産省は健康に効果がある機能性農産物の生産と消費を拡大しようとしている。機能性農産物として認定されるには多人数に使用させてプラセボと効果を比較する必要があり、この比較試験の負担が課題との説明もあった。しかし、三種類のモデル事業の中にはこの課題解決に直結しない事業もある。比較試験に関わる評価指標も設定されていない。また、機能性農産物が高収益ならば農業者が自ら取り組むはずであり、政府が支援することへの説得力は不足した。

「事業内容の一部改善」と判定された事業

「農山漁村地域整備交付金」は、地域の実情に対応して圃場の大規模化や津波対策などを進める際に交付金を支給する制度である。実は、およそ10倍の規模で補助金事業が実施されている。農林水産省の説明では、補助金は同省が政策的優先付けをして配分するが、それではカバーできなかった部分について47都道府県の申請に基づいて交付金を渡しているという。一方、成果指標は補助と交付金の両事業を合わせたもので、交付金の効果が直接評価できないという問題が判明した。

国有林の整備事業についても議論した。森林には保水効果があり洪水を緩和するので、整備を放棄するわけにはいかない。国土保全の観点から否定できない事業であるが、成果指標には民有林の効果が混ざっているため、国有林に限った評価をすべきである。

評価者の意見が分かれた事業

「飼料生産型酪農経営支援事業」は、酪農が輸入飼料に依存し窒素等が環境に過剰蓄積される問題に対応する、というのがうたい文句である。しかし、わが国で飼料用作物の作付面積を拡大する余地は少なく、今後も7割・8割を輸入飼料に依存するしかないのが現実である。一方で地球環境問題には地道に取り組むしかないので、環境配慮として事業を継続するのであれば、堆肥利用による農薬や化学肥料の削減を成果指標にするのがよい。評価者の意見が分かれ、結論は「事業内容の一部改善」と「廃止」の両論併記となった。

行政事業の効果を国民に明示するには成果指標が正しく設定され、また、成果指標を正確に測定する手法をあらかじめ用意しておく必要がある。農林水産省のレビューはこのことを痛感するものとなった。