W杯開幕:なぜ一般紙は「ロナウド」でなく「ロナルド」なのか?

新田 哲史

サッカーW杯ロシア大会が開幕した。昨晩のフランス–オーストラリア戦、アルゼンチン–アイスランド戦のいずれも観たが、なんといってもその日の未明(日本時間)にやっていたスペイン–ポルトガル戦に比べたら、いずれも「凡戦」にしか見えなかった。

スペインは、監督が大会後にレアルと契約していたことを協会に報告していなかったために、大会前日に解任されるという驚きのネガティブニュースが勃発。さてどうなることやらと思っていたが、まったくの杞憂で、針の穴を縫うような芸術的なパスワークと、2得点したディエゴコスタに代表される、優れた個人技で局面を打開する「らしさ」は全く陰りを見せなかった。

大会公式Facebookより引用

ポルトガルは2年前の欧州王者だが、どうしても総合力では及ばない。ボール支配率は38%にとどまり、なかなかパスもつなげなかったが、やはり絶対エースのクリスティアーノ・ロナウドが得意のセットプレーの2得点を含めてハットトリック。ネット上では「スペイン VS ロナウド」と評されるほど圧巻のプレーだった。

試合や各選手に関する論評は凡百のサッカーメディアに詳細は譲るが、ロナウド選手といえばしばしば私が家族や知人から質問を受けることがある。それは選手名の表記。

テレビやスポーツ紙の多くは、「ロナウド」と表記しており、サッカーファンにはそちらのほうが馴染み深いだろう。ところが読売、朝日など一般紙は「ロナルド」と記載しており、元運動記者の筆者にもしばしば違和感を指摘する声は耳にする。

試合後に報じられた脱税のニュースに関しても朝日はご覧のような見出しだ。

ロナウドか?ロナルドか?この件については前回大会当時に、毎日新聞の校閲グループが運営するサイト「毎日ことば」で一応の解説は試みている。

ロナルド選手の場合、サッカーに詳しくない読者も多い一般紙は現地の発音に近づけることを優先し、逆にある程度サッカーに親しんでいる読者層に向けた媒体は、慣例の表記として「ロナウド」を選ぶ傾向にあるのではないかと推測できるのです。

この解説は間違ってはいない。ただ、スポーツを専門としない校閲記者が書いているためなのか、あえて書いていないのかはわからないが、実はもっとシンプルな理由がある。

それを知るために、ある報道機関の、きのうの試合結果の記事の見出しをみてほしい。

ロナルドがハットトリック ポルトガル―スペインは3―3

これは共同通信。こちらも朝日や読売などと同じく「ロナルド」の表記にしているが、そこがポイントだ。

日本の一般紙のスポーツ報道は、共同通信が配信する記事や記録などを使っている。そのため、先述の毎日サイトの解説で述べているように、「サッカーに詳しくない読者も多い一般紙は現地の発音に近づけることを優先」という側面もあると同時に、共同通信のコンテンツをスタンダードに選手の日本語表記も準拠しているという事務的な理由があると思われる。

なお、スポーツ紙については、毎日ことばによれば、日刊は4年前は「ロナルド」だったようだが、今大会は「ロナウド」を使用。スポニチ、サンスポ、報知は引き続き「ロナウド」を使っている。スポーツ紙各社も共同から配信は受けているが、やはりサッカーファンに馴染みのある「ロナウド」を採用している。

それにしても、一般紙が使う「ロナルド」。さほどサッカーに詳しくない、一般紙のメイン読者のシニア層にとっても、あれだけの世界的大スターの名前は、テレビを始め各種メディアで使われている「ロナウド」のほうに馴染んでいるのではないか。私はサッカー担当こそ経験しなかったが、運動記者時代から引っかかっていたことだった。