児童相談所を縛るダブルバインド:介入と支援は分割すべき

駒崎 弘樹

目黒区の結愛ちゃん虐待死事件の続報がありました。

女児虐待死事件児相の訪問拒否

香川の児相職員は、引っ越した父親に連絡を取って拒否され、そのままになっていた、というのです。

2回一時保護しているのに、なお親子分離して施設や里親に預かるというステップに進めない。

あるいは品川児相も、家庭訪問しているのに、母親に面会を断られ、子どもに会えない。

一般的に見ると、「なんでそんなに弱腰なの?」と見える児童相談所。

ここには、児相が構造的に苦しむ「ダブルバインド」があります。

児相の任務は第一義的に「援助」

児童相談所は、児童福祉法12条に位置付けられ、その役割を詳しく「児童相談所運営指針」(以下、運営指針)に規定されています。

ここでは、

1児童相談所の設置目的と相談援助活動の理念 

(1)  児童相談所は、市町村と適切な役割分担・連携を図りつつ、子どもに関する家庭その他からの相談に応じ、子どもが有する問題又は子どもの真のニ-ズ、子どもの置かれた環境の状況等を的確に捉え、個々の子どもや家庭に最も効果的な援助を行い、もって子どもの福祉を図るとともに、その権利を擁護すること(以下「相談援助活動」という。)を主たる目的として…

と一番最初の項目で規定されています。

つまりは、「個々の子どもや家庭に最も効果的な援助」を行うというミッションがいの一番に来るのです。

また、さらに、

指針(5) (略)

迅速かつ的確な対応を図るとともに、親子の再統合の促進への配慮その他の児童虐待を受けた子どもが良好な家庭的環境で生活するために必要な配慮の下、子どものみならず保護者も含めた家庭への支援に一層積極的に取り組むことが重要である。

バラバラになった「親子の再統合」に向けて頑張って、一層積極的に支援しよう、とも言っているわけです。

あなたたちは「支援」機関なのだ、と厚労省から言われているわけです。

「命を助ける」こととのコンフリクト

でも一方で、今回の結愛ちゃん事件のように、「とにかく虐待から子どもの命を救ってよ」という社会的要請も担っているわけです。

しかし、児童相談所運営指針で「救出」という言葉があるか。

ゼロです。

「介入」という言葉は?

ゼロです。

「助け出す」もしくは「助ける」は?

ゼロです。

児童「相談」所という名前で分かるよう、相談を受けて支援する機関なわけです。

あくまで児童相談所は「支援する」ことを規定されているのに、同時に救出し、助け出し、子どもの命を守ることも実際的には求められているのです。

「嫌われたくない」児相

「親子再統合に向けて支援する」機関だとすると、親から嫌われてしまってはいけません。

「会いたくない」と言われたら、支援できないからです。

信頼関係を気づき、良い関係になって、支援を行なっていって、壊れた家族がちょっとずつ回復していく。

そういう風になっていってほしいわけです。

でも同じ職員が、親子を支援する役と、厳しく引き離す役をやらないといけないわけです。

よって、子どもの命を助け出すために、無理やり親子を引き離す、嫌がっているのに子どもを見せろ、というのは、なるべくだったらしたくないな、という心理が働いてしまう。

そして手遅れになるのです。

児相の機能は分けるべき

アクセルとブレーキを両方踏めと言われる現状。

ここから何が言えるか。

児童相談所の機能を、分割するべきです。

とにかく子どもの命を守るために、一時保護や親子分離、親権停止を行なっていく介入機関と、親子をじっくりと支援していく支援機関に。

組織を分けることが難しければ、少なくとも部署は分ける。

親子の立場に立つ部署と、リスクセンシティブで子どもの命を優先する部署が、緊張関係を持ちながら、議論しつつ、最善の手法に辿り着く。

介入と支援で、それぞれ専門性も違うので、専門性を磨いていくのもやりやすくなります。 

放置された議論

実はこのような議論は目新しいものではありません。

多くの専門家が少なくとも3年前には指摘をして、それを受けて2016年の児童福祉法改正時点で、附則に児相業務の見直しはこう記載されました。

「政府は、この法律の施行後二年以内に、児童相談所の業務の在り方、・・・要保護児童の通告の在り方、・・・について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」

2年以内、というのは2019年3月まで、です。

では、その間に児相の業務見直しについて、児相の組織改革について有識者会議を開き、結論を出したでしょうか?

ノーです。

つまり、結論を出さないまま、ほぼたなざらしにされてきてしまっているのです。

(厚労省の方に念のため聞いたら「内部で研究している」ということでした。でも、その研究や検討プロセスを国民にオープンにしないと、単にそう言ってるだけ、と取られかねません)

署名で組織改革を後押し

僕たちは、こうした児相の介入と支援を同じ職員がやらないといけない、というダブルバインドに苦しむバグを、直してほしいと思います。

児童虐待防止署名キャンペーン内の、児童虐待防止八策にも、「部署を分けて」という件は入れました。

もう、一人も虐待で死なせたくない。総力をあげた児童虐待対策を求めます!

悲惨な虐待死事件を機に、放置されてきた児相の組織改革が、リブートされることを、心から願っています。

そのためには、皆さんの力が必要です。

署名は皆さんの声を見える化する、大切な方法なのです。

追記

児相職員の方からは、「介入と支援は、プラオリティを介入におけば、実は両立できる。それこそが専門性です」というご意見を頂きました。本来ならば、両者を統合的に駆使できる専門性溢れる職員ばかりならば、またそのプライオリティをいつも間違わない組織ばかりなら良いと思うのですが、なかなかそれは難しい。

よって、両者の統合が目指すものだ、というビジョンのもと、部署を分けてよしんば職員の専門性が欠けていたとしても、命が守られる方向性に向けて組織改革していくのが良いのではないか、と思います。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年6月16日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。