依存症者の事件!回復の社会システム

田中 紀子

実は先日、新幹線で痴漢事件を目撃し、捜査に協力するという出来事があり、事の顛末をブログに掲載したところ、普段の倍の方々に読んで頂くという反響を頂いております。

新幹線で痴漢行為を目撃

この男性はおそらくアルコール依存症だと思われますが、車内でもひっきりなしに飲み、まっすぐに歩けないような状況で、迷惑行為を繰り返しておりました。

このまま見て見ぬふりは、この人のためにもならない、もちろん若い女性に対する2度にわたる痴漢行為を目の前でみたので、なによりも怒りの気持ちがありましたが、この男性の「回復への道」ということも考え、毅然とした態度をとることに致しました。

良く誤解されるのですが、依存症者が犯罪を犯した時に、「依存症と言えば許されると思うな!」と言った批判が出るのですが、私たちも罪を犯した依存症者を身内びいきで、かばおうという気は全くありません。

昨今、覚せい剤の自己使用の様な、被害者なき犯罪の場合は、刑務所より治療をした方が、社会的コストの面でも、再犯防止の面でも、メリットが大きいということで、刑の一部執行猶予制度がはじまりましたが、そのことと、こういった被害者のあるアルコールやギャンブルの事件とは全く違う対応になるのに、混同されている方が多くて、こちらも困惑しています。

むしろよいターニングポイントとなるので、再犯防止のためにも、もっと一般社会の皆様方に、ビシッと司法に訴えて欲しいと思っています。私たちも、依存症問題で被害者など出て欲しくないのです。

ところが、窃盗、万引き、無銭飲食、無賃乗車、さらには酩酊状態における、このような痴漢や暴力事件など、比較的軽微な犯罪ですと、被害者や警察も家族の被害金額の弁償や示談金の支払いなどで済まそうという傾向が強く、なかなか事件化してくれません。このことをもどかしく思っています。

そして司法の手に委ねられたら、何と言っても再犯防止策になにができるか?を社会全体のシステムとして構築せねばなりません。執行猶予もしくは実刑後に社会に出てきた時に、いかに回復支援先に繋ぐか?
これが大きな課題です。

今回の痴漢騒動で警察に協力し、4時間近く拘束されたので、その間アルコールの市民団体の草分け NPO アスクさんの今成代表に、こういったケース、ここから先どうしたらいいか?アドバイスを頂いたところ、驚くべきことをご教示下さいました。

実は1961年(昭和36年)に制定された、実に古い法律なのですが、酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律というものがあるのだそうです。

これは悲しい歴史の上にできた法律で、昭和33年(1958年)6月に東京都足立区で酒乱で無職の父親に暴力を振るわれながら働かされていた、16歳と13歳の姉妹が、父親の寝込みを襲って絞殺した上、自首するという痛ましい事件があったそうなのです。事件後、全国で姉妹への減刑嘆願運動が起こるとともに、アルコール問題への関心が高まったそうなんですね。

そして、この法案はは1961年、戦前・戦後の女性運動を担った故市川房枝さんらを中心とした、衆参両院の女性議員による議員立法で成立したのだそうです。

やがて、この法案をきっかけに、現在、依存症の拠点病院の長となっている、久里浜医療センターができ、そこにフランス留学から戻った精神科医で作家でもあられた、故なだいなださんが赴任され、閉鎖病棟を開放病棟に変更されたとのことなんです。

どうですか?
市川房江先生のような気骨ある女性議員もいなくなりましたが、我々依存症者は、この事件をきっかけに多くの人達に門戸が開き、助けられるようになっていったわけですよね。本当に目頭が熱くなるような法案です。

そしてこの法案の第七条に

警察官は、第三条第一項又は警察官職務執行法第三条第一項の規定により酩酊めいてい者を保護した場合において、当該酩酊めいてい者がアルコールの慢性中毒者(精神障害者を除く。)又はその疑のある者であると認めたときは、すみやかに、もよりの保健所長に通報しなければならない。

という条文があるんです。

ところがこの条文これまで殆ど生かされてこなかったんだそうなんですね。

そしてこの度「アルコール健康障害対策基本法」ができた際に関係者会議の席上で、今成さんがこの法案を掘り起こして、「今後、警察から保健所へ連携して貰えないか?」と提案した所、警察庁の生活安全課がやる気になって下さり、都道府県に基本計画に協力するよう通達が出たんだそうです。

残念ながら、今回の件では担当の警察署の方々は、この通達をご存じないようでしたが、これからも裁判等でも関わることがありそうなので、この男性に対する再犯防止、回復支援にどのようなレールがひかれるか、またこちらから提案などできるか?どのタイミングで、誰が動いてくれるのか?
などなど実体験で検証しながら、見届けていきたいと思っております。

このように依存症者が罪を犯した場合は

・依存症だからと言って罪から逃げられるわけでもなく、また逃れさせることが決して本人のためにならないこと
・肝心なのは、刑を受け入れた後にどのような回復支援に繋げれられるか社会システムを構築すること
・そして刑を受け入れ、回復支援や治療を受けて、依存症から回復した際には社会復帰を応援して貰うこと

私たちはこれらの課題を解決すべく、日々活動に邁進していますが、
社会の皆様方にも是非ご理解頂ければと思っております。


編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年6月26日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。