ブラジルのトラック運転手のストでも軍部の介入を懇願


ブラジルではトラックの燃料価格の上昇に不満でトラック運転手が全国規模で5月21日からストを決行し2週間続いた。

このストの影響は当初予想していた以上の規模で展開し、ガソリンスタンド、スーパーマーケット、病院、空港など物資が底をつくような状態になり、港でも輸出する商材の搬入がなく輸出できない状態になったほどである。

8つの空港で飛行機に給油する燃料が欠乏し、5月末までに270便がフライトを中止した。

動物愛護協会によればこのストによって飼料不足で6400万羽の鶏と鳥が死亡し、更に10億羽が犠牲になる危険があった。同様に2000万匹の豚も危ないという警報も一時的にあった。病院では患者への治療も保障できなくなるといった懸念を表明していた。

僅か5%の支持率しかないテメル大統領は、2016年に政権に就くとブラジルの石油・ガスの独占企業ペトロブラスの経営陣を一新させて彼らに国際市場での値の動きを見て価格設定できるようにさせた。それまでは政治的な価格が設定されていた。自由に価格相場を決めることができるようになって、しかもレアル通貨が対ドルで50%程度値下がりしたことによって、トラックのディーゼル油の価格も急騰したのである。それが、今回のストを導いた主因であった。

それ以外にも、運転手のアデミルが指摘しているように、タイヤの価格も高騰して1800レアル(54000円)もするようになっているという。彼にとって、それは「ブラジル南部のサンタ・カタリーナまで玉ねぎを輸送する稼ぎとほぼ同じだ」と言って不満を述べた。

これまでのトラック運転手のストと幾分異なっているのは、例えば、リオデジャネイロのレドゥックの精油所に集まったスト決行者の周囲には彼らのトラックが見当たらなかったのある。理由は、「道路をトラックで封鎖すると、そのあとについて来る罰金が高くつくからだ」と言って取材に答えたそうだ。

一部の者はプラカードに「もう軍の介入だ」と書いていた。そして彼らが異口同音に口にしているのは、「テメル政権が瓦解するまでここから動かないぞ」、「軍部が国のコントロールするのを望んでいる。権力に縋って腐敗した奴らを全員締めだしてくれ」という願いであった。

彼らを解散させようとしているのが政府から要請を受けた軍隊であったが、皮肉にも彼らを前にして、スト決行者らは国歌を歌いながら軍部が国をコントロールすることを懇願したのである。

政治危機に終止符を打つべく軍部の介入を要請するようになっているのが最近の抗議デモ参加者の間で頻繁に起きている現象だという。それが、元軍人で「ブラジルのトランプの異名を持つ下院議員ジャイル・ボルソナロの大統領候補としての人気上昇と重なってクーデターという幻想を呼び起こしているのである。

それに水かけるようにテメル大統領は外国の報道メディアでのインタビューの中で、「トラックの運転手によるストの影響から軍部が介入する危険性はない」と断言した。

エチェゴイェン治安安全相は「軍の介入は20世紀のことだ。軍部の誰もそれを考えてはいない」と述べた。彼は退役将軍で、テメル大統領の首席補佐官である。

また、連邦警察に勤務して30年の経歴を持つ高官の一人は、「トラックの運転手の中で軍の介入を懇願しているのは少数派だ」、「少数だが目立つ」、「ジャイル・ボルソナロを支えている支持率と同じくらいであろう」などと述べた。即ち、20%だということである。

更に同氏は「現在軍部によるクーデターは不可能に思える」、「これまで政府によって解体させられて、今日彼らには手段はなく、ブラジルのように巨大な国家の権力を握るだけの物質的条件にも欠ける」と述べて軍の介入の可能性を一蹴した。

最高裁長官のジョアキン・バルボサは自らの大統領選への出馬を否定し、その場を利用して地平線上に3つの危険を指摘した。その3つとは「ボルソナロが大統領に選ばれること」、「テメルが何か理由をつけて在任すること」、「軍部のクーデターが起きること」。

危険を孕んでいるのはブラジルはラテンアメリカ18か国の中で、自国の民主主義に満足している者が6%しかいないということである。

最近のブラジル紙『Folha de S.Paulo』がトラック運転手のストを軍隊がコントロールしようとしたことに満足していない軍人もいるというのを明らかにした。即ち、軍部の中には政府の指示に服従することを否定する可能性もあるということなのである。

ルラ元大統領を刑務所から釈放させないように軍部が圧力をかけているという憶測は充分に可能性としてある。勿論、その背後にはブラジルの右派と連携して米国の存在があるということは国際政治専門家ニコラ・ハドゥワも指摘している。