親に「子どもに会わせない」権利はない:明石市の挑戦

駒崎 弘樹

僕は20年前弁護士をやっていて、子どもの虐待死事件を担当しました。

加害者は、僕の友人でした。

どうしてもっと早く止められなかったのか。激しく悩みました。

その時から、児童虐待問題について強い思いを持っています。

国基準の2倍の職員配置の児童相談所を設置することに決めた明石市の泉房穂市長は、自身の動機をこう語ります。

子どもと100%会う

今回の結愛ちゃんのケースでは、品川児相が家庭訪問をしているにも関わらず、母親に面会拒否をされ、子どもに会えていません。

ここが非常に問題だったと思っています。

必ず会って、子どもの状況を確かめる。確かめることで、虐待を発見でき、助けられます。

そこで、明石市は全ての子どもに対して、4ヶ月健診・1歳半健診・3歳児健診・5歳児入学前健診の機会を捕まえて、小学校入学前までに面談を4回実施しています。

もしこの健診で子ども本人に直接会えなければ、児童手当の振り込みを止めます。

完全に支払わないのは法的にできないので、「子どもに手渡し」に切り替えるんです。これは厚労省からもOKが出ています。

ここまですると、「会わせない」と言い張る親御さんはいらっしゃらなくなります。

そもそも、保護者の方が「子どもに会わせない」という権利ってないと思うんですね。子どもは親の所有物ではないので。

泉市長のこの施策は、「こどもスマイル100%プロジェクト」と名付けられ、実際に100%会うことに成功しているそうです。

児相は倍増すべき

児童相談所の数が少なすぎます。

現状、全国で210ヶ所ですが、これは60万人に1ヶ所の計算です。

一方で、イギリス等は人口30万人に1ヶ所です。つまり、外国の半分しか児童相談所が置かれていないわけで、これは倍増させないといけません。

特に、(人口20万人以上の)中核市(54市)と特別区(東京23区)は、2年前の児童福祉法改正で児童相談所設置の努力義務が課されました。結果どうなったか。

中核市の大半は設置の検討すら始めておらず、児童相談所の設置が決まっているのは、明石市だけです。

子どもの命を守ることは、中核市にとって、してもしなくてもどちらでも構わないことではないはずです。

中核市や特別区は努力義務ではなく、法的義務にすべきです。

また、職員の数は増やすべきで、国基準の2倍の児童福祉司を配置するなど、手厚く専門職を配置します。

よく人がいない、と言われるのですが、児相を作る時に人を採用してもダメで、市町村としても子どもやその家庭を支援する職員の数も専門性も必要なのですから、作る前から採用あるいは人事異動で配置しておいて育成していけば良いのです。

質の向上には常勤弁護士

児相職員の専門性が問題になります。今回の事件でも、2回も一時保護されている子どもを、家庭に戻してしまいました。

この専門性を磨こうにも、現在、研修センターは横浜市に1ヶ所しかありません。少なくとも全国8ヶ所くらいに研修センターがあって、そこで研修を受けられるようにしないとダメでしょう。

また、児童虐待に精通した弁護士さんを「常勤で」置かないといけません。日々の対応でも法律に基づく適切性をすぐに判断しなければならない場面があるのです。例えば、親権停止するのも、やっぱり児相職員だけで判断するとなると、かなりハードルが高くなってしまいます。

現状は、常勤弁護士を置いているのは、全国で数カ所のみ。東京都は非常勤の弁護士で対応しています。

一刻を争う事態で、かつケースの詳細を理解していないといけない中なので、やはり常勤の弁護士さんが関わってくれていないと、難しいと思います

と泉市長は語ります。

東京都の児相数は11ですが、全ての児相に弁護士を置いても11人。東京都の弁護士数は1万6894人なので、この中で児童虐待にしっかりと関わりたいという弁護士さんを11人採用することは、そこまで難しいことではないでしょう。

市町村はもっとできる

児相も可哀想なところがあって、児相は都道府県に設置なので、例えば目黒区のなんとか町の事情は分かりません。だから、ピンポンしていなかったら、帰ってくるしかない。でも、区だったら、民生委員や町内会の人の所に行って、その家庭の事情を聞き込みしたり、あるいは民生委員さんに夜訪ねてもらったり、ということができます。

市区町村はもっともっと児童虐待に関われます。だけど、虐待専門職員をしっかり置けていなくて、非常勤や兼務で回している実態があります。

フローレンスも日々、地域でソーシャルワークをしていますが、市区町村に設置されている児童虐待を担当する「子ども家庭支援センター」があまりにも専門性が低かったり、人がいなかったり、そのためにケースへの感度が低く動かなかったり、ということにいつも辟易としています。

また、「子ども家庭支援センター」は介入する権限も持っていないので、やれることに限りがあり、ついつい「様子見」にとどまってしまうことも多々あります。

市区町村でもっとケースを持っていくことができれば、都道府県の児相に集中しているケースを分散でき、本当にすぐに介入しなくてはいけないケースに児相の資源を投入できるため、市区町村での児童虐待対策は、本当に重要です。

一時保護所や里親も増やそう

一時保護所も足らないので、増やしていくことが必要ですが、既存の一時保護所は、大部屋に非行児童と虐待された児童を一緒に入れて、という刑務所的な環境です。

よって、明石市では定員30人で原則個室、という環境の一時保護所を作る予定です。

国は里親委託率75%をうたっていますが、日本の里親委託率はいまだ2割にも達していません。

明石市では、児童養護施設や乳児院の協力も得ながら、里親を必要とする子どもたち全員を対象とした里親100%を目指しています。市職員の里親休暇制度も新設しました。

最後に

明石市の泉市長はエネルギッシュな方でした。印象的だったのは、「人口30万人の明石市でできて、他ができないわけないんです!」と強調されていたところです。

まさに、やる気になれば、他の自治体でもできるわけです。

特に「子どもと必ず会う。会えなければ、児童手当は手渡し」というのは、どこの自治体にも真似してもらいたい施策だと思いました。

国、都道府県は児童虐待防止に動き始めています。市区町村の首長や地方議員の皆さんも、今回の結愛ちゃん事件を他人事とせずに、一歩踏み出すことが必要なのではないでしょうか。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年6月28日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。