サッカーワールドカップで日本代表が敗れた。残り十秒での敗戦には衝撃を受けたが、選手たちはよく頑張った。
ワールドカップ中継は軒並み高視聴率を稼いでいるが、NHKは試合をネットに同時配信している。インターネット接続環境があれば誰でも事前登録なしに視聴できる。今回の配信の名目は「総務大臣に認可を受けた「放送法第20条第2項第2号および第3号の業務の実施基準(インターネット実施基準)」に基づき、NHKのインターネットサービスの改善・向上に役立てるため、実施するもの」となっている。
インターネットサービスの改善・向上のための実験とは不可思議な表現だが、それには理由がある。以前の記事にも書いたが、日本民間放送連盟はネット同時配信に反対である。民放連の井上会長(当時)は2018年1月25日の記者会見でNHKの同時配信計画について「NHKの今後の方針を表すスローガンのようなものと理解しているが、多岐にわたる論点を含んでいる言葉でもある。」「NHKは丁寧に説明してほしいと思う。」と語り、その姿勢は大久保新会長に引き継がれている。
規制改革推進会議投資等WGで放送制度改革が議論されてきたが、4月26日の議事録を見るとNHKが同時配信に積極的なのに対して、民放連は「民放事業者は災害時などの同時配信は積極的に実施していますが、常時同時配信は事業性の観点等から実施するという経営判断に至っていません。」と慎重な姿勢であった。そのうえで、次のように話している。
時代としてはそういった方向で取り組んでいくのですが、地方に行って調査し日本全体を見ると、高齢化が進む地方ではテレビに対する支持が非常に強く、なかなかスマホで見るわけにもいかない層もいらっしゃいます。一概にある目標を定めて全国で津々浦々に当てはめるのではなく、地域の格差の問題や年齢といった細かいところを見ていかないと少し大ざっぱな議論になってしまうと感じています。
不思議な意見である。同時配信を議論しているだけなのに、ネットに全面的に移行して放送波を停止せよと迫られているかのような話しぶりである。
投資等WGの結論を元に、6月4日に規制改革推進会議が第3次答申を決定した。その中には「インターネット同時配信を推進するとともに、通信網・放送波の配信方式にかかわらず、視聴者にとってより利用しやすく、既存の放送事業者にとってより自由度の高い事業展開の選択肢が得られ、かつ新規参入がより円滑に可能となるよう、多様な事業者が利用できる新たなプラットフォーム・配信基盤を構築する」という方向性が書かれている。政府はネット同時配信に放送制度の舵を切った。
情報通信政策フォーラム(ICPF)では、7月10日に「放送制度改革の行方」についてシンポジウムを開催する。投資等WGの原座長をはじめ識者に集まっていただいて、ネット同時配信を含めて徹底的に議論することにした。どうぞ、ご参加ください。