再び札幌に来た。ちょうど1か月前、学生6人を連れ、取材をして歩いたばかりだ。今回は北大主催のサマーインスティチュートで、中国語による中国メディア関連授業を行うのが目的である。雨が続いている。札幌にも梅雨があるのかと思えてくる。北大の緑は雨に打たれ、青々としている。静かな杜の中で学ぶことのできる北大の学生たちは恵まれている。
あわただしくもあり、にぎやかでもあった学生との取材ツアーを思い、一人で再訪する身に深い感慨を覚える。忘れがたい記憶、懐かしい気持ちが、酒の味を深める。ゆっくり回想するにはちょうどいいタイミングである。
こちらに来ても連日、学生たちが北海道取材の成果を示す原稿が届く。期末テストから解放され、遅ればせながら記事を書き始めているのだ。彼女たちの文章を読みながら、取材の場面が改めて目に浮かんでくる。
5月30日、上海経由で札幌千歳空港に到着した。いきなり目にした広告は携帯アプリ、微信(ウィーチャット)決済の広告だった。歩く歩道の側面から、荷物を受け取るバゲージクレームにまである。さぞ中国人観光客が多いのだろう。
「私たちは買い物に来たわけじゃないからね」
私は冗談のつもりで言ったつもりだが、学生たちは若干緊張しているのか、真に受けたようだった。ドラえもんの前で記念写真を撮り、快速エアポートで札幌に向かう。切符も一人一人に購入させ、機械の操作を覚えさせる。所要時間は37分。学生たちは車中、興味津々に車窓から見える光景にカメラを向ける。彼女たちにとっては、初めて見る外国の景色である。自分の目で見て、耳で聞き、体で感じられる旅をさせてあげたい。それが取材ツアーの目的なのだ。
思いもがけない出会いこそ価値がある。一人の学生と列車の隣に居合わせた日本の女性との会話が始まった。小樽出身で、もともと中学校の英語教師だったという。お互い決して流暢とは言えない英語だが、和気あいあいと会話を楽しんでいる。私は一切、かかわらず、二人のやり取りをながめている。
その学生が帰国後に書いた感想文の中に、この列車の中の出会いに関する次のくだりがある。
--会話の話題は北海道のグルメから天気、建築など、さらには私二人ともファンのフィギュアスケート、羽生結弦選手のことにまで及んだ。私たちの英語はあまり上手ではないので、とぎれとぎれ少しずつ交流するしかなかったが、とても愉快で、終点でお別れするまで会話は続いた。
--同じような現地の日本人との交流はたくさんあった。たとえば、コンビニ店の店員は電子レンジで食べ物を温めるのを手伝ってくれたし、北大博物館の店員はTシャツのサイズを熱心に探してくれた。取材の際の交流もある。すべての出会いが楽しかった。
--私は人と話をし、交流をする感覚が好きだ。言葉が通じなくとも、交流の妨げにはならない。お互いが少しの自信と思いいやりを持てば、二つの心はお互いに理解し合うことができる。
列車は恵庭を通過した。つい3週間前、北海道を訪れた李克強首相が立ち寄った「えこりん村」のある場所で、今回の取材先にもなっている。他の停車駅同様、思ったほど小さな駅に学生たちは驚く。それだけに札幌駅の繁栄は印象的だったようだ。地下鉄南北線で中島公園駅まで行き、ようやくホテルに着いた。道中、彼女たちが撮った写真をいくつか紹介する。新鮮な学生の目が、レンズを通し初めてとらえた外国の光景だ。
(続)
編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2018年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。