依存症報道グッドプレス賞「神3」の座談会です

7月5日に、グッドプレス賞受賞の模様をブログに書かせて頂きましたが、表彰式と同時に開催された、我々の業界の「神3」

・斎藤 環 先生 筑波大学医学医療系社会精神保健学教授
・松本 俊彦 先生 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部長
・信田 さよ子 先生 原宿カウンセリングセンター所長

の座談会を開催しましたので、今日はその模様を書きたいと思っています。

いや~、玄人っぽい話もあったり、マスコミの皆様の新鮮なご提案もあったり、
実に、中味の濃い内容だったと思います。

まずは先生方の自己紹介から

斎藤環先生
ひきこもりというのは依存症モデルで治療するという動きが広がっています。
ひきこもり問題もマスコミとの闘いだったんです。2003年に新潟で起きた監禁事件によって、
ひきこもり問題について悪い印象がつきそうだったんですね。
そこでそうじゃないということに走り回ったので、その時にマスコミ対策は非常に重要だと学びました。
今日は、そんなことが皆さまの参考になったらと思います。

松本俊彦先生
僕は、専門家をそだてることよりも、実は一般の人達に依存症のことを分かって頂くことの方が、
ずっとずっと大事じゃないかと思っているんです。

結局法の解釈なんていかようにも変わるもので、世論にどのような空気感があるかなんです。
だから世論に一番影響を与えるものって何だろうと考えると、
やっぱりマスメディアなんだと思うんです。

マスメディアを責めているだけでなく、正しい報道をしてもらって、
国民のリテラシーを高めていく、そんなことが必要だな~と考えています。

信田さよ子先生
私は70年代からなので一番業界長いと思うんですけど、当時は医者達が一生懸命メディアに対して「病気なんですよ」と言っていたけど、それが結局「意思の問題」という風に書かれてしまって、裏切られるというのを見てきました。

メディアの論調は依存症の人の人格を貶めるものという風潮がありましたが、今日のこのグッドプレス賞を見ていて、確実に時代が変わってきたかなと思いました。

それだけ依存症が身近になってきたのかなと思います。
そんな中で、このグッドプレス賞は新しい依存症時代の幕開けになっているのかなと思いました。

以下、私の独断で重要だな~と思うところを抜き出します。

松本先生
マスメディアの人達が悩ましいのは、依存症は病気であるんだけど、でも医療だけではないというのは、メディアの人達はどう伝えたらいいのか?となると思います。依存症問題は、専門職と当事者家族の意見がバランスよく取り入れられるように、一部の人達の特権にならないように、配慮しなくてはならないと思います。

司会の今成さんから
依存症は、ユニークな病気です。一番最初に当事者たちが声をあげて、言葉を作っていきました。そしてその次に専門家がそこにのっていきました。
その専門家も医者が何かをやるというよりも、色んな専門家が支援してくれていきました。
一ついい事はそういう歴史があるので、みんなが対等に話すことができる病気なんです。

松本先生
依存症は支援が必要な人が、支援に結びついていない、その割合がすごく大きな病気です。
だからそのためには、マスメディアの報道や、啓発が必要なんだと思うんです。

ダルクの反対運動が今激しい地域があるんですが、その中心人物が保護司さんだったりするそうなので、余計驚いたんですけど、でもその人達は依存症者に出会ったことがないと思うんです。
もし誰か回復者と知り合いだったらそんなことは絶対ないと思います。

では、何故そんなことになっているのかと言えば、その根源は薬物乱用防止教室だと思うんです。
今の薬物乱用教室は、薬物依存症者は、異邦人・モンスターであると植えつけているんだと思うんです。

で、そういう教育を受けた人達が、マスメディアに入って、そのスティグマを強化するような報道をして欲しいとなると、依存症者を滅多打ちすることになる訳じゃないですか。

だからメディアの人達は、そのスティグマをひっくり返すような報道をして欲しいと思います。
そうしないと悩んでいる人が助けを求められないんですよね。

斎藤先生
ひきこもりも家族は医療化を望んでいるんですよ。
もちろん医療化によって、費用面などのメリットは大きいので、入り口としての医療化は良い。
けれども医療化のデメリットは、精神疾患というスティグマを強めてしまうということですね。
最近の傾向として、ケアとキュアということがよく言われるんですけど、ケアはこれは治療のこと、キュアはソフトな支え方、支援ですよね。

このケアとキュアというのはどんどん接近していて、もっと言えば一体化しているんですよね。
治療の対象であるものが、支援に繋がるという曖昧化に繋がるんですけど、曖昧な方が私は良いと思っているんですよね。大事なことは、スティグマにならないこと。それはどういうことかと言えば、自分もなるかもしれない、無関係ではないという視点ですよね。

よく薬物の使用前、使用後みたいな写真がありますけど、あれはインチキですよね。
でもあれでモンスター化を図っている。印象操作をしてスティグマを強めている。

私が最近引用するのは、ツイッターで反応してきたひきこもりだった人なんですけど、その人は、毎日昔からの友達が訪ねて来てくれた。で、その人は自分のことを、「困難な状況にあるまともな人」として扱ってくれた、これが救いになったと言っています。

この考え方は、普遍性高いと思うんですね。これは依存症の人も同じですよね。
異常性に注目してしまう、医療ではこの視点はなかなか出てこない。
医療化という入口を利用しながらも、キュアの視点をドンドン取り入れていきたいなと思います。

信田さよ子先生
精神神経学会が公認心理士の認定にあたって意見書を書いたんですが、臨床心理士の援助行為は医療行為とどこが違うのか?ということで、全部医者の指示を得ろ!という通達を出したんですよ。
これは医療は相当危機感をもっているなと思ったんです。

ケアもキュアも曖昧になっていることで、医療は相当な危機感から、「ケアもキュアも医療だよ」という日が来るんじゃないかと思っているんです。

医者はあの処方権ですよね~。最後は薬出す権利を持っている人が面接上手くなるわけないだろ~!
と私なんかは思ってます!(会場爆笑)
アディクションの精神科医は自助グループのすごさを知っているだけマシだと思ってます。

Number 鈴木さん
うつ病と薬物依存の関係ですが、うつ病って認定されますけど、いつ認定されるものなんですか?
清原さんが、うつ病が苦しいとおっしゃっているんですけど、もしかしてうつ病が苦しくて、薬物依存になったのかなぁと思うんですけど……

松本先生
依存症になる人と精神疾患は両方持っている人は多いです。
もともとそういうメンタルヘルスの問題を持っていて薬物を使った人は、もともとハッピーだった人よりも、強烈に薬の威力を感じたはずです。

信田先生
どっちが先かはあまり問題じゃないですね。
薬物依存より、うつ病の方が高級に見えるという方が問題ですね。(会場爆笑)
合併症があったら、絶対依存症とは言わないですよね。双極性とか、うつって言いますよね。

読売新聞 上村さん
僕はこの中で、マスコミでもあり、家族でもあるというこの中で唯一の立場だと思うんですけど、ずっと悩んでいたのは、去年1年間連載をやらせて貰いましたが、次に記事を書こうと思っても難しい訳です。

次に書こうと思っても、マスコミってスクープ至上主義な所があって、何故今取り上げるのか?という必然性がないとなかなか難しいところがあります。

自分も当事者として、依存症の報道を増やすとしたらどうしたらいいのか?と考えた時に、当事者の側にも工夫がいると思うんですね。

例えば新しいデータを出す時に、どういう風に出すかとか戦略的に医療者も支援者も考えていかないといけないのかな?と考えています。参考までに事件事故で亡くなった遺族の方などは、定期的にマスコミとの懇談会などを設けていたりしますし、そういった意味では、依存症の当事者、家族の人と定期的に懇談会を持つのなんかはどうかな?と思います。(会場激しく同意)

NHK 中野さん
もっと総合テレビのほうで啓発をしていかないといけないんだなと思ったのと、Eテレの方は当事者家族の方に情報を出さないといけないなと思っています。

でも、僕も次はどうやったら報道できるのかな?と思っていたところです。
どちらかと言えば、次はどんなことを取り上げて欲しいか?
ということをドンドン寄せて頂きたいなと思います。

読売新聞 上村さん
反響の電話が来るってすごく嬉しいんですよ。

会場
へ~!嬉しいんですね。

司会今成さん
メディアカンファレンスみたいなものも実現したいですね。

信濃毎日新聞 稲田さん
うちも小さい規模の新聞で半年間で60数回の連載をやったということは、一つメディアとして変わっていくことなのかなとお聞きしながら思いました。

個人的に、Eテレのうたのお兄さんが執行猶予中なんですが、執行猶予あけた時に、お母さんと一緒の30周年があるんで、NHKのEテレさんは、あきひろお兄さんを呼んでくれるのかな?と、是非、呼んで欲しいと思っています。

会場
わぁ~NHKさん是非!
みんな絶対呼ぶべきだ!とNHKさんに投書しましょう!

司会・今成さん
良い取り組みをしてくれている地域などを、どんどん取り上げて頂けるといいですよね~。
だからこそのグッドプレス賞ですよね~。

と、最後は上手くまとまったところで、お開きとなりました。
どうですか?皆さん、実に学び多き座談会とは思いませんか?
我々はやはり、批判ではなく、工夫が必要であり、相互の理解とよき連携と努力によって、依存症の偏見を取り除いていけるんだなぁと実感しました。

仲間の皆さん、今後も様々な工夫と発信で、
マスコミの皆さんと、よい報道を増やしていきましょう!


編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年7月6日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。