経営における戦略とは、自社が進むべき方向を策定する重要な指針として考えられている。戦略は広範囲な理論として役割と機能が明確化されている。働く人は戦略によって行動を規定され利益をもたらすことが求められる。さらに、成果を出せる人は、どの会社でも重宝される。いまは自己変革が求められる時代でもある。
今回は、『2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート』(かんき出版)を紹介したい。著者は、長谷川和廣さん。『社長のノート』シリーズは累計25万部を超している。
略歴を紹介したい。2000年、(株)ニコン・エシロールの代表取締役に就任。同社を1年で営業利益黒字化。2年目に経常利益黒字化と配当を実現、3年目で無借金経営に導く。これまでに2000社を超える企業の再生事業に参画し、赤字会社の大半を立て直す。現在は、国内外企業の経営相談やセミナーなどを精力的にこなしている。
頭を使っていない人にツキは回ってこない
長谷川さんは、中途採用をおこなう際の要点を次のように解説する。「これは1つの考え方ですが人材を採用するとき企業が欲しいのは『ツキのある人』です」と。
「幸運の女神を引き連れて入社してくれる人ほど、企業にとってありがたいことはない。自慢させていただけば、私はそんな人材を1回の面接で見抜く名人でした。面接に来る人は、大体3つのタイプに分けられます。まず論外なのが、『私は一部上場会社で課長をしていました』と過去の肩書きを強調するタイプです。」(長谷川さん)
「一番多いパターンが、具体的な数字をあげて成功体験をアピールする人です。たとえば、『新製品の市場導入に関わり、1億円以上の売り上げを達成した』。私はここで質問をして、ツキを持っている人かどうかを見分けます。『プロジェクトが成功した要因は何ですか?そしてあなたのどんなスキルと行動が、成功するのに役立ちましたか?』」(同)
すると、的確な答えが出てこない。プロジェクトのときにはたまたま「運に恵まれていた」のかも知れない。安定的に成果を出せなければツキがあるとはいえない。
「私が求める本当にツキに恵まれている人材とは、自分の成功体験から、成功の要因を取り出して、自分の『勝ちパターン』を構築している人なのです。極論すれば、ビジネス上のツキはスキルから出た結果です。成功への必勝パターンは、骨惜しみせず働き、頭もフル回転させている人にしか身につかないからです。」(長谷川さん)
「面接で、この勝ちパターンを持っている人が見つからなかった場合は、逆に失敗について、その敗因をきちんと語れる人を次善の人材として採用します。つまり失敗を人のせい、会社のせいにせず冷静に分析できる人なら、逆に『負けないパターン』を構築できる可能性があるからです。」(同)
仕事は妥協をせず完璧を目指す
仕事はどんなに頑張っても完璧にできるものではないので、100%を目指すとかえって効率が悪くなると主張する人がいる。長谷川さんは「完璧を目指せ」という。ここで、興味深いエピソードを紹介したい。
「眼鏡メーカーのニコン・エシロールの社長兼CEOを務めていたときのこと。店頭でディスプレイされている眼鏡はライバル会社の製品にも、我が社の製品にも等しく、多くのレンズに指紋がついていました。そこで『せめてウチの商品だけでも指紋がついていなかったら、どうだろう?』と言うと、営業部員たちは小売店を回るたびに自社の眼鏡をきちんと拭いたのです。」すると、売り上げが1割程度上がりました。」(長谷川さん)
「眼鏡というのは直接、身体に触れる製品だけに、指紋がついているか否かでは、お客様に与える印象が違うのです。指紋拭きの効果はそれだけではありませんでした。すべてをキレイにしたいという気持ちからか、店頭での自社製品の並べ方が整ってきた。周囲から『あそこの社員は身体の動かし方が変わってきた』と評判になったのです。」(同)
結果的に時間の経過とともに、営業部員は誇りを持ちながら仕事に励むようになった。さらに、利益や成果だけでなく、働く喜びという副産物もついてきたそうだ。本書では、このようなケースが豊富に掲載されている。その多くは、共感でき、自分のやっていることを振り返られる内容である。経営者ならではの視点も興味深い。
尾藤克之
コラムニスト