サッカーのワールドカップロシア大会のベスト4には、フランスとベルギー、クロアチアとイングランドが進出し、準決勝は10日(日本時間11日)と11日(同12日)に行われる。イングランドは1990年のイタリア大会以来7大会ぶりの4強入りとなったが、準々決勝の試合会場には、英国の閣僚や英国王室メンバーの姿はなかった。
これは英国南西部のソールズベリーでの元ロシア人スパイの毒殺未遂事件を受け、ワールドカップへの閣僚などのボイコットを決めたためである。しかし、イングランドが準決勝まで進んだことで、ボイコットを決めたメイ首相への風当たりも強まっている。
もともとメイ首相はあまりサッカーには関心はなかったともされているが、政治的にもメイ首相はいま英国を離れるわけにはいかないような状況に追い込まれている。
メイ首相が欧州連合(EU)離脱を巡って、EUとの関係を重視する穏健離脱の方針を打ち出したことに反発し、強硬派とされ、EUとの交渉の責任者であるデービスEU離脱担当相が8日に辞任した。9日にはやはり強硬派とされるジョンソン外相が辞任した。
これを受けて外為市場ではポンドがドルに対して下落した。しかし、その下落も落ち着き、いまのところ英国発の金融市場でのリスクオフといった動きにはなってはいない。それどころかロンドン株式市場では、ポンド安を「好感」し、代表的な株価指数であるFTSE100種は続伸となっていた。ただし、英国債は買われ、10年債利回りは1.25%と先週末の1.27%から低下しており、多少はリスクオフの動きが出ていた可能性もある。
確かに外相辞任により、英国のEU離脱の先行きが不透明になるものの、いまのところ離脱支持派の議員らはメイ首相に退陣を迫るようなことはなく、首相に対する不信任投票の動きも出ていない。
現実として英国はメイ首相の穏健路線を取らざるを得ないと思われ、むしろ閣僚から強硬派の二人が辞任したことで、穏健路線を進めるきっかけになる可能性はある。ジョンソン外相の後任に指名されたジェレミー・ハント保健・社会福祉相は、元々はEU残留派だった。
ただ、メイ首相にとってロシアとの関係悪化がなければ、ワールドカップの貴賓席に座り、イングランドチームの躍進を自らの追い風にできるチャンスもあったはず。もしこのままイングランドが決勝に進むようなことがあれば、国民の支持を得るためとして、ボイコットの方針を覆す必要が出てくるかもしれない。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年7月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。