裏口入学の実態と実際

尾藤 克之

画像は読売新聞朝刊2018.07.13(筆者撮影)

7/13(金) 読売新聞によれば、東京医大裏口入学問題で、過去に不正合格させた受験生やその親の名前などが書かれた「裏口入学リスト」を作成していると報道があった。すでに東京地検特捜部は、同大側から複数のリストを入手しているようである。今年2月の入試で佐野容疑者の息子の点数を加算して合格させるよう学内で指示したとしている。

裏口入学の実態と実際

数年おきに「裏口入学」の問題がとりざたされる。この類の話は昔からあるが実際はどうなのだろう。いま、某代議士の議員会館の部屋である取引が行なわれようとしている。

--ここから--

後援会幹部
お世話になった方の子息がどうしても「X大学」に入りたいと言っていてね。そこを先生の力でどうにかなりませんかね?

議員秘書
かしこまりました。お土産は大丈夫ですか?

後援会幹部
板チョコ3枚くらいなら。先生もお好きな甘くてとろけるやつですよ(笑)

議員秘書
チョコを2枚くらい追加してもらえると早いと思います。私も最近は物入りでね。イタリア製の赤いスポーツカーの燃費が悪いもので、今度はドイツ製にしようかと・・

後援会幹部
お主もワルよのぉ。ほっほっほっ!

--ここまで--

このような話をまともに受けている人がいれば、それはテレビドラマの見過ぎだろう。政治家や議員秘書には、どうしても裏口入学や斡旋などのダーティなイメージがつきまとうが、議員秘書はこのような違法行為には手を出さない。違法行為が露見した際のメリットはまったくないからである。

しかし、陳情であれば“無下”にできないのも事実。悪い評判を流されたり敵陣営に行かれると困るので形式上、検討する形を取る。そして、次のような対応をおこなう。

例)前述の後援会幹部のケース
(1)後援会幹部が秘書に依頼。
(2)秘書は受験番号を確認する。
(3)お世話になった子息が大学を受験。
(4)合格発表がされる1週間程度前に秘書は大学に連絡をする。
(5)合否確認をおこなう。
(6)合格をしていたらお祝いを送付、不合格でも即座に伝える。
※ポイントは合格発表前であること。

秘書は大学に対してなにも違法行為をしていないことがわかる。合格なら「実力で合格していた」ことになり、不合格なら「実力が達していなかった」ことになる。議員事務所を通すと、なんらかの便宜をはかったように見えるので、親御さんはとても感謝をするかも知れない。しかし、本人は実力で合格を果たしている。秘書は何もしていない。

渡したお金は戻ってこない

ところが、「裏口入学の斡旋でお金を騙し取られる」という話は昔から良くある。私は法律家ではないので専門的な見地からのコメントは控えるが、民法708条により、裏口入学を依頼した側にも厳しい判決が言い渡されている。

民法第708条(不法原因給付)
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

「不合格だからお金を返せ」という訴えに対して金品を提供して便宜を図る(このケースは裏口)ような行為は社会通念上許されない。だから返さなくて良いとするもの。裏口に関する訴訟では同様の判決が出ている。依頼する側、依頼される側、双方にとって全くメリットがないので、このような陳情には対応をしないことが常識になっている。

今回の東京医大のケースは、官僚であること、点数を加算させたことが従来と異なる点である。ところが、私立の場合、有力者の子どもを推薦扱いにして合格させることはよくあるし、海外で推薦入学はポピュラーな手法である。当然、違法ではない。

つまり、テレビドラマで放映されるような、完全な「裏口」というものは存在しないと考えたほうがいいだろう。誤解を与えるため、「推薦入学」と表現したほうがベターではないか。今回の東京医大のケースは、「加算のさせ方と中身」が重要になる。推薦であれば、さほどの事件性は無いという判断にもなる。

尾藤克之
コラムニスト