日銀の雨宮副総裁は以前、朝日新聞のインタビューで「物価上昇率2%」について、「簡単に機械的に達成することは難しくなっている」と認め、7月の金融政策決定会合で要因を再点検する方針を示した。
「もう一度物価が上がりにくい理由、物価観の形成の仕方などを点検する。物価動向について何が起きているのかをきちんと詰める」とも語っていた。
その結果次第では簡単には物価目標は達成できず、このままの状態では半永久的に異次元緩和を続けざるを得ない状況に陥る可能性もあるのではなかろうか。そうなると懸念さけるのが、異次元緩和による副作用となる。
副作用のひとつが国債市場への影響となる。すでに債券先物は日中、数銭しか動かず、現物債もカレント物と呼ばれる直近発行された国債までもが日本相互証券で出合わない日が何日も出てきている。相場が動かなければ、債券市場関係者はファンダメンタルなどに応じた金利の調整といった経験を積めないばかりか、人材も流出しつつある。また膨大な国債を抱えていてもそれによるリスクへの意識がかなり薄れてきていると言わざるを得ない。国債利回りの上昇に耐えうる市場でなくなってきている。
雨宮副総裁は「副作用が緩和のメリットをひっくり返す大きさにはなっていない」としつつ、「(副作用が)知らないうちにたまっていることもあるので、注意深く見ていく必要がある」と指摘していた。その副作用としては金融機関の体力を奪っていることもある。
6月14、15日に開催された金融政策決定会合における主な意見で、ある委員から「金融機関では、保有有価証券の評価損益の悪化に加え、低収益店舗の減損リスクも生じてきている。」との意見が出ていた。
国際決済銀行(BIS)の関連組織は5日公表した報告書の中で、低金利の長期化が銀行収益の下押しなどを通じ「金融システムの脆弱性の原因になりうる」と警鐘を鳴らした(日経新聞)。これは日本に限ったことではないものの、異次元緩和による日本の金融機関への影響も危惧すべきものとなる。
時事通信は「日銀は大規模な金融緩和が長期化する中、金融機関の収益悪化や国債取引の低迷など緩和がもたらす副作用の軽減に向け本格検討に入る。」と伝えている。
「今月末の金融政策決定会合でまとめる経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、物価見通しを下方修正する見込み。現在の大規模緩和策を抜け出す「出口」が見えない中、政策委員の一部でも、副作用への警戒感が広がっており、会合では突っ込んだ議論となりそうだ。」(時事)。
この時事通信の記事は気になるところ。7月の決定会合で物価が上がらない要因を再点検し、このまま異次元緩和を続けて行くことによる副作用についても検討し、副作用を軽減しつつも大胆な緩和を継続するための政策について検討してくる可能性がある。
ここにきて日銀の国債買入の減額などに為替市場が過剰反応してこなくなるなど、微調整イコール円高との認識が後退してきている状況も修正を行いやすくしているのではなかろうか。
これにより、8月には何らかの調整を日銀が行ってくる可能性がある。国債やETFなどの買入額の柔軟化、そして長期金利コントロールの柔軟化などが候補となるのではないかと思われる。金融機関の収益など考慮するとマイナス金利政策をまず止めるべきと思われるが、これについてはややハードルは高いのではなかろうか。いずれにしても日銀の英断を期待したいところである。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年7月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。