ロシア大会は最高のW杯だったか

国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長は15日、「ロシアのサッカー・ワールドカップ(W杯)大会はこれまでで最高のW杯だった」と述べた。横にいたロシアのプーチン大統領を意識した外交辞令という面もあるが、FIFA会長の発言は間違っていない。多くの感動的なシーンもあったし、日本代表チームもベスト16入りを果たし、健闘した。

▲ロシア大会で2回目の優勝したフランス代表(ドイツ公営放送の中継から 2018年7月15日)

▲雨降りのなか表彰台に立ったプーチン大統領とマクロン仏大統領(ドイツ公営放送の中継から 2018年7月15日)

フランスが5大会ぶり2度目の優勝を勝ち取り、クロアチアが同国歴代最高の準優勝。それに次いで、ベルギーが3位、イングランドが4位と、1位から4位まで欧州代表が独占した。ただし、前回の覇者ドイツ代表がグループ戦で早々と敗退したのは予想外だった。

決勝戦では、安定したプレーとデフェンスで相手チームの攻撃をかわしたフランスに対し、クロアチアはクリエイティブなプレイを見せたが、後半は疲れが見えてフランスのデフェンスを破ることが出来ずに敗北を喫した。

フランスはラッキーだった。先行点に繋がったFWアントワーヌ・グリーズマンのダイブ(dive)をアルゼンチンのネストル・ピタリ主審はクロアチア側のファウルとした。明らかに誤審だった。後半のぺナルティエリア内でクロアチアのFWイバン・ぺリシッチの手にボールが当たったとしてぺナルティキック(PK)をフランス側に与えた場面も残念ながら誤審だ。すなわち、クロアチアはフランスの4点のうち2点を主審の誤審で取られたわけだ。誤審はサッカー試合にはつきものだが、今大会に導入したビデオ判定でも誤審を避けることが出来なかったという事実をFIFAは深刻に受け取るべきだろう。

世界32カ国から結集したサッカー代表が1カ月に及ぶ熱戦を繰り広げたW杯はロシア国民にとって忘れることが出来ないイベントだっただろう。ロシア代表も健闘をみせ、準々決勝に進出し、ホスト国の面子を保った。日常生活の閉塞感を吹っ飛ばし、世界から集まった選手やファンと共に声援を送るロシアの若者たちの姿が非常に新鮮だった。

ロシア代表のスタニスラフ・チェルチェソフ監督はオーストリアのサッカーチームの監督だったことがある。その監督がロシア代表監督として頑張っている姿はオーストリア国民にも好意的に受け取られた。スター選手はほとんどいないが、チームが結集して頑張れば予想外の成績も可能だということを今回のロシア代表は教えてくれた。多くの国民も心から愛国心を感じて代表チームに声援を送っただろう。政治では難しい国民の結束をサッカーが可能にしたわけだ。

ロシア大会ではフーリガン対策が課題だったが、大きな不祥事はなかった。15日決勝戦後半、ロシアのパンク・バンド「pussy Riot」の関係者がピッチに降りて試合を妨害しただけだ。

オーストリア日刊紙スタンダートによると、W杯前にロシア治安関係者がフーリガン関係者を一斉に家宅捜査し、「お前が問題を起こせば、お前の家族、友人も大変になるぞ」と脅かしたという。暴れん坊で有名なロシアのフーリガンも治安当局の恐喝に怯え、大会中は何も手が出せなかったというのが真相らしい。

決勝戦後の表彰式で突然、雨が降りだした。ピッチで設置した表彰台に立つプーチン大統領、マクロン仏大統領、クロアチアのコリンダ・グラバル=キタロビッチ大統領も雨に濡れた。興味深かったシーンは雨が激しく振り出した時だ。1本の傘が運び込まれた。プーチン大統領をガードする関係者がすばやくプーチン大統領の上に差した。マクロン大統領とコリンダ・グラバル=キタロビッチ大統領には傘が届かない。雨は容赦なく降る。マクロン大統領は頭から背広までずぶ濡れだが、笑顔を必死に保っていた。表彰式をTV観戦していた当方も心配になってきた。ようやく2本目の傘が届いた。マクロン大統領の上に差されたが、コリンダ・グラバル=キタロビッチ大統領には傘がまだ届かない。しかし、クロアチア初の女性大統領のキタロビッチ大統領は、雨を物ともせず、びしょ濡れになりながらも選手たちを抱擁し健闘を讃えていたのが印象的だった。

雨降りの表彰台を見ていた息子は、「さすがロシアだな。雨が突然降りだした。傘は1本しかない。その時、誰に最初に傘を差さなければならないかロシアでは明らかなんだ」と変な所をシニカルに感動していた。16日はヘルシンキでトランプ米大統領との首脳会談が控えている。プーチン大統領に風邪でもにひかれれば大変、と考えた上の行為だったかはもちろん分からない。

2022年W杯はカタールで開催される。中東地域初のW杯開催だ。気候・環境問題だけではない。サッカーのインフラにも問題がある。サッカー・ファンの一人として、カタールでW杯が本当に開催できるか、心配している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年7月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。