この日曜に「ロッテはやはりZOZOに球団を売るべき」と書いて2日後、前澤友作社長がツイッターで球界参入構想をカミングアウトするとは、さすがに想定外で驚いた。
【大きな願望】プロ野球球団を持ちたいです。球団経営を通して、ファンや選手や地域の皆さまの笑顔を増やしたい。みんなで作り上げる参加型の野球球団にしたい。シーズンオフ後に球界へ提案するためのプランを作ります。皆さまの意見も参考にさせてください。そこから一緒に作りましょう! #ZOZO球団
— Yusaku Maezawa 前澤友作 (@yousuck2020) 2018年7月17日
あまりのタイミングのよさに、ネット民だけでなく複数の球界通から直接問い合わせもあった。「新田さん、ZOZOと裏で結託しているんですか?」とか「新球団の幹部を狙っているのか」などなど。残念ながら、周囲のご期待(?)に反し、前澤氏とは面識はない。ちなみに田端さんとはFacebookでは繋がっているが、彼ともリアルでお会いしたことはない。前澤氏がアゴラの記事を読んだのかどうかはわからないし、たまたま事前に準備をしていたところに、あの記事が出たタイミングが重なったのかもしれないが、私が関知しないところでの突然の発表だった。
ロッテはあっさり身売り否定:アテのない(?)参入名乗り
しかし、いずれにせよ、去年から書いてきたように、ZOZO(10月にスタートトゥデイから社名変更)は財務的には球界参入できるだけの力は備えてきた。知名度と社会的ステータスのさらなる押し上げに、プロ野球参入はまたとないチャンスといえる。楽天やDeNAが新風を吹かせてきたような活躍が期待できるが、買収先として最もその名が取りざたされるロッテは、山室球団社長が早々と記者会見し、売却を否定した。
ZOZO前澤社長の球界参戦希望にロッテ球団・山室社長「売る意思はありません」 (東スポWEB)
実はまだ交渉中で額面通りに受け取れないという見方も多少はあるかもしれないが、堀江貴文氏がNewsPicksとツイッターで次のようにコメントしたことで、かつての堀江氏と同じく「アテのない名乗り上げ」の可能性が強まったようにみえる。
ひっそりと動いている16球団化のキーマンを前澤さんに紹介しときましたよ。四国アイランドリーグベースに一球団、BCリーグベースに北信越に一球団、静岡に一球団、沖縄に台湾と米軍連携で一球団っていいと思う。
16球団構想は、二宮清純氏の提言や、自民党の地方創生政策のアイデアで数年前から取りざたされてきた。前澤氏が球界参入に意欲を持って水面下で動いていたことはわかったのだが、しかし、問題は堀江氏が紹介した「キーマン」が、NPBの「中の人」なのか「外の人」なのか?「外の人」であっても中枢や12球団の現オーナーたちに影響力のある人物かどうかだ。
野球界の有職故実を知らずして勝算はあるか
昨晩、複数の球界関係者に話を聞く中でわかった限りでは、少なくとも「中の人」ではない人物を紹介された可能性がある。もちろん、その人物は12球団の中でも改革派とされるオーナーとパイプがひょっとしたらあるのかもしれないが、少なくとも、球界参入の鍵を握る「ラスボス」、読売新聞グループ本社の渡邉恒雄会長との関係性は見えてこなかった。
先日の記事でも書いたように、もしZOZOが地元の千葉ロッテマリーンズを買収して、斬新なアイデアでグラウンドも営業面も充実してくれるのであれば、私は賛成だ。前澤氏が意欲を示したことに嬉しく思う。しかし、この30年の球界参入の事例をみてきた経験から危惧する面もある。良くも悪くもプロ野球は、インナーサークルの世界だから既存プレイヤーたちのキーマンとうまく折り合わないと、門前払いをされてしまう。
さしづめ戦国時代でたとえれば、地方の有力大名が大軍を引き連れて上洛したはいいが、官位や綸旨をたまわろうと朝廷工作をしようにも「有職故実」を知らなければ、相手にされないも同然というのが、いまのZOZOが直面している状況だ。
特にこのインナーサークルの世界は、どのタイミングで公表するのかも参入を占う大きなポイントだ。過去30年、ダイエーが南海から、オリックスが阪急から、そしてソフトバンクがダイエーからそれぞれ球団を譲渡されたケースでは、表沙汰になった時点では買収に目処が立っていた。
一方、堀江氏は近鉄買収のあてがない段階で名乗りを上げて失敗。球団譲渡のアテがあるケースでも、TBSからのベイスターズの譲渡交渉がまとまらないうちに表沙汰になった住生活グループ(現リクシル)は、結局決裂した。そして、次にトライしたDeNAは、創業者の南場智子氏が球界のラスボスたる渡邉氏にしっかり根回ししたこともあってベイスターズ参入に成功した。
ロッテの担当記者時代、当時球団トップだった瀬戸山隆三氏から、ダイエー勤務時代に南海との交渉担当をつとめたときの経験談を聞いたことがある。相手方との密会場所まで、記者に尾行されていないかどうか常に気を揉んでいたという。
堀江氏のように正面から世論を喚起して本丸への突入を目指すだけでは難しい。慎重に慎重を期し、そして南場氏が柔軟に対応したように、古臭い永田町文化的な根回し交渉がモノを言う世界なのだ。
ソシオ制度?上場構想?参加型のZOZO球団とは
もちろん、そうした球界の因習めいた部分を変える期待はある。前澤氏が言う「みんなで作り上げる参加型の野球球団」の具体像はまだわからないが、スペインサッカーのFCバルセロナのソシオ制度のように、ファンが経営首脳を選挙で決めることもできる「民主的」なものを思い描いているのか。あるいは、かつて村上世彰氏が阪神電鉄買収時にぶちあげたタイガース上場案のように市場の目を入れるものなのか。
いずれにせよ、12球団のうち1球団、あるいは16球団にする際の新球団の一つくらいは、これまでにないタイプのファン参画型の経営を展開する試みはあっても面白い。
しかし、その前に「有職故実」をもう少しわきまえた、したたかさも要求されるところだ。そうでないと厚い壁に阻まれてしまいかねない。このあと、どのような手を打ってくるのか。「無理ゲー」に挑む前澤氏の戦略に注目したい。