TEDとストーリ的プレゼンに共通する「伝える技術」とは!?

urban_data/flickr:編集部

Himalayaで無料音声配信している「コミュニケーション講座」の「ストーリー的プレゼン」を聴いたリスナーから鋭い質問が寄せられた。
詳しくは音声の方をお聞きいただきたいのだが、要は「なぜ、ストーリー的プレゼンは巡り巡って結論に至るという迂遠な方法を用いるのか?」という疑問だ。

私自身、当時説明を失念していた部分だったので、真剣に向き合ってくれた質問者に心から感謝したい。

「ストーリー的プレゼン」は唐突に「事実」や「経験」から始まり、次第に結論に導いていくという手法を用いる。

そのプロセスの中で、「危機一髪ピンチパターン」を取り入れ、「解決能力のある聞き手」に「大義」を用いて説得する。

なぜ、唐突に「事実」や「経験」から話し始めるのか?

この点については、「伝える技術」(ジェイ・ハインリックス著 ポプラ社)が「TEDの人気プレゼンで使われているテクニック」として的確に紹介している。

同書では、TEDのスピーチは「証明(例)を挙げ、それから結論を出す」という帰納的な論理を用いていると書かれている。

その逆である演繹的な方法をとると、以下のような不具合が生じるからだ。
以下は同書からの引用だ。

たとえば、「人を操ることをいいことに使うためにはどうすればよいか」というテーマの演説をしたいとしよう。あなたは「地球の平和を望むのなら、人を操ることの正の側面についても知らなくてはならない」と言って、聴衆の注目を集めることもできる。だが、ほとんどの人が「ちょっと待った。私は人を操るのは嫌いだ。この変な奴が、私が人を操るようにしようと思ってもそうはさせないぞ」と思うだろう。演繹法を使うと、こういうことになってしまう。

ストーリーテリングに破壊的効果がある理由の一つにも挙げたが、演繹法を用いると、聞き手は条件反射的に頭の中で反論を組み立ててしまう。
そのバリアを容易にくぐり抜けることができるのが、ストーリーテリングの威力の一つだ。

世界銀行のデニングのプレゼンも、映画「評決」の最終弁論も、はたまたジョブズの初代iPhone紹介のプレゼンも、いきなり結論に入ったりはしていない。

かつて一世を風靡した「ハーバード白熱教室」のサンデル教授は、「人間は自分の能力だけで成功を勝ち取れるのではない」という結論を学生たちに納得させるため、「この教室で長子の人は手を挙げて!」と言った。
8割くらいの学生が手を挙げたと記憶している。

教授は、「たまたま兄弟の中で一番先に生まれたという偶然によって、ハーバードに来ることができた。私も長子だ(笑)」と言って、能力万能主義をやんわりと否定した。

講義の内容は忘れたが、「君たちは自分の能力だけでこの教室にいられる訳ではない」という主張を執拗に繰り返しても、学生に挙手をさせるほどの説得力は到底得られなかっただろう。

「環境はもちろん大切だ。しかし自分に能力がなければここにはいない。同じような環境にいても大学に入れなかった連中はたくさんいる」と、学生たちは反射的に頭の中で反論を組み立ててしまうからだ。

サンデル教授は、事実を突きつけるという帰納法によって学生たちを納得させたのだ。

ストーリーテリングの醍醐味は、聞き手に「感情移入」を起こさせて、共に結論に至る道のりを歩むことだ。
これができれば、聞き手の心を鷲掴みにして感情をグイグイ揺さぶることができる。

ぜひとも、有効活用していただきたい。

THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術
ジェイ ハインリックス
ポプラ社
2018-04-06

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。