朝日新聞のキー局批判はピント外れ

NHKニュースより

朝日新聞が記事『豪雨、報道手薄だった民放 現地の局「キー局鈍かった」』を配信した。被害が集中した期間に在京キー局が通常放送を続け被災地での報道に影響が出た、と記事は主張する。

「弱きを助け強きを挫く」を旨とする朝日新聞による在京キー局批判は正当だろうか。

記事には「地方局は全国ネットの番組の放送をやめていつでも独自の番組を流すことがシステム上は可能だが、簡単に全国ネットから降りることはできない」と書かれていた。これはどういう意味だろう。

スポンサーは視聴可能な世帯数に比例して広告費を出す。全国5000万世帯にリーチできるキー局には5000万円の広告費を出すが、100万世帯の地方局には100万円しか出せない。100万円では番組が作れない地方局はキー局番組を再送信し、キー局から広告費の分配金を受けとる。多くの地方局でキー局への依存率は90%を超えている。これが日常だから「自局で長時間にわたる特番を急きょ独自に作る体力はない」というわけだ。

放送法は第百八条で「基幹放送事業者は、国内基幹放送等を行うに当たり、暴風、豪雨、洪水、地震、大規模な火事その他による災害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、その発生を予防し、又はその被害を軽減するために役立つ放送をするようにしなければならない。」と規定している。地方局も基幹放送事業者だから、地方局は義務違反を犯した。

弱い体力でも災害放送はできる。岡山県・広島県・山口県・愛媛県などの災害情報を順番に流すように地方局が連携すればよいのだ。中国・四国地方の人々は各県の情報が一度に見られるし、自局だけで特番を作るのに比べて各局の負担は少なくて済む。

広島県での祭りのニュースを山口県で流すというように、日常的にも地域内で連携すればさらによいのだが、「区域外送信は悪」と信じているから地方局は動いていない。日常の連携がなければ災害時の連携もできない。

ニュースネットワークANNは災害放送での連携強化について、さらには日常的な連携強化について協議を始めるのがよい。日常的に連携が進むとキー局への依存度は下がり、それだけキー局の価値は薄れるが、それこそが「地域住民」という「弱き」を助け、また豪雨の教訓を生かす道である。先日の情報通信政策フォーラム(ICPF)でも区域外送信が話題になったが、ネット同時配信よりも容易な区域外送信に地方局はまず取り組むべきだ。

それにしても、テレビ朝日の大株主という立場を忘れて書いた記事に説得力は乏しい。