最大の技能実習生送り出し国、ベトナムから移民について考える

細野 豪志

「お客様、こんにちは!」

技能実習生がベトナムで研修を受ける、いわゆる「送り出し機関」を訪問すると、若者の声が教室中に響き渡っていた。弾けるような笑顔と目の輝きが眩しい。

20年ぶりに訪問するベトナムの首都ハノイは、私の記憶とは全く違う近代的な街になっていた。変わらないのは、国民が圧倒的に若いということだ。ベトナム人の平均年齢は30歳。送り出し機関で学ぶ若者はもちろん、街を見渡してもエネルギーであふれている。50歳を前にした私の年齢になると、「おじいさん」と呼ばれても、文句は言えないそうだ。

彼らは、ベトナム国内で半年前後の日本語や技能の研修を受け、3年間、延長されれば5年間、日本で技能実習生として働くことになる。業種は建設、工場、農家など。働く場所はもちろん、住む場所も指定され、一定の制約の中で生活をする。技能実習生という名目にはなっているが、私の知る限り、彼らは例外なく親に仕送りをしているので、実質的には出稼ぎだ。日本の若者のワーキングホリデーとはわけが違う。

ハノイの空港は、若者を見送る親類縁者でごった返していた。20歳前後と言えば、私の娘と同世代だ。生まれて初めて異国に渡る若者と、送り出す親の気持ちを想像すると切ない気持ちになる。

最大の技能実習生の送り出し国となったベトナム

ベトナムからの技能実習生は2017年の時点で12万人を超えており、すでに中国を上回り、最大の送り出し国となっている。私の地元でも数多くのベトナム人が技能実習生として働いている。真面目で粘り強く、手先が器用で、周りに配慮ができるとベトナム人の評判は上々だ。人手不足に苦しむ経営者の目が、ベトナムに向かうのも無理はない。

今回のベトナム訪問の目的は、外国人労働者の送り出しの実態を知り、今秋の入国管理法の改正の議論に備えることだ。滞在期間をフル活用し、3つの送り出し機関と、介護職の技能実習生予定者が学ぶ医療介護の短大を訪問し、多くの当事者や関係者の話を聞くことができた。これまで、日本国内で技能実習生が働く職場や、受け入れている組合からは話を聞いてきたが、ベトナム側から見た技能実習の実情を知ることができたのは収穫だった。

深刻な人口減少に直面しているわが国にとって、避けては通れない問題だ。今やアセアンの中でも最も親日的だと言われるベトナム人が日本に来て活躍することは、両国にとって望ましいことだと思う。ただ、技能実習生の現状には相当の問題があり、本格的な労働者の受け入れとなると、相当の覚悟をしなければならない。

まずは、政府が提案を予定している新たな制度の概要を紹介する。

特定技能が認められる業種はどこまで拡大するか

政府が提案しようとしているのは、「特定技能」(仮称)という在留資格を新たに設け、外国人労働者の受け入れを大幅に拡大する入国管理法の改正だ。秋の臨時国会で成立させ、来年4月から施行を目指すというスピードだ。

当初は、建設、造船、農業、介護、宿泊の5業種からと言われていたが、各業界が猛烈にプッシュした結果、金属加工、鋳造、食品加工などの製造業、漁業などが滑り込みそうだ。こうなると、他の業界も黙っていないだろう。

他国の例を見ても、雇用における自国民優先の原則を確認しなければ、外国人排除の動きが出てくる懸念がある。業種の選定については、それぞれが日本人で充足される可能性を見極めながら拡大していくべきだ。

ただ、すでに候補となっている業種だけを考えても、相当に幅広い外国人労働者が入国してくると見るべきだろう。

悩ましい介護人材

特定技能が認められることが確実な業種の中で、最も人手不足が深刻なのは介護分野だろう。介護が必要なお年寄りが生活している特別養護老人ホームの多くはギリギリの運営を強いられている。

今回、施設の皆さんの面接を見学することができた。介護施設の責任者がハノイまで来ていることからも、期待の大きさが分かる。皆さん、学生たちに施設のセールスポイントを懸命にアピールしていた。

面接を受けていたのは、短大で医療介護の専門知識と日本語を同時に学んでいる学生たちだ。日本語だけを勉強していても習得が難しいのに、彼らは医療介護を並行して学んでいる。80人以上いた学生の中で面接までたどり着いたのは22人。能力とやる気を備えた精鋭たちだ。

彼らをもってしても日本語は難しい。彼らの日本語能力はN4(N5からN1まである中で下から二番目)。一般的な技能実習の基準はクリアーしているのだが、現段階では介護現場で働けるレベルではない。介護は命を預かる仕事だ。お年寄りや同僚とのコミュニケーションは欠かせない。彼らが現場で実際の介護の仕事をできるのは、何時からだろうかと思わず考えてしまった。

今回、面接を受けていた22人は日本に行く決意を固めていたが、彼女たちは、ベトナムで看護師になることもできるし、日本以外の外国に行くという選択肢もある。ハードルを上げ過ぎると、日本に介護の仕事に来てくれる若者はいなくなるだろう。

介護分野だけではない。技能実習生を希望するベトナムの若者は年々減少しており、農村部に出向いて募集をかける時代になった。送り出し機関の責任者の「若者が選択する時代だ」のひとことは実に重かった。

外国人にミドルクラス、単純労働を開放

これまで高度人材に限ってきた外国人の就労をミドルクラスはもちろん、単純労働にまで拡大するとなると、間違いなく国策の大転換だ。通常国会中、各省から相当みっちり話を聞き、提案される制度の概要は理解できた。新たに導入される特定技能が認められるのは、技能実習生から移行するコースと技能実習を経ずに直接認められるコースの2つ。直接コースは何らかの基準や試験が必要なので、来春からスタートとはならないだろう。まずは、3年なり5年なり日本で働いた実績のある技能実習生が「特定技能」という在留資格を得ることになる。

特定技能の労働者として在留資格が得られると、技能実習とは異なる対応が可能となる。多くの技能実習生は最低賃金で働いているが、特定技能は日本人と同等の待遇となる。また、業種内での転職が認められているため、居住移転の自由が認められる。

新しい在留資格が設けられる最大の理由は人手不足だが、自由度の高い制度が導入される背景には、技能実習生制度の抱えてきた問題点があると私は見ている。次回は、現状の技能実習生制度の問題点とそれをどう克服するかを考えてみたい。


編集部より:この記事は、衆議院議員の細野豪志氏(静岡5区、無所属)のオフィシャルブログ 2018年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は細野豪志オフィシャルブログをご覧ください。