兵器の性能というものは相対的なものです。
旧式兵器でも相手がそれ以上の旧式だったり、持っていなければそれでいいわけです。
例えば南アフリカのオリファント戦車。元々大戦中に開発されたセンチュリオンです。
これで現在も問題がない。なぜならば、かつて周辺諸国はT-55やT-62であり、105ミリ砲を搭載するなどの近代化を受けたオリファントは圧倒的な強さを発揮しました。
オペレーションモジュラーでは南ア国防軍は90ミリ砲搭載のラーテル装甲車で戦って、圧倒的な勝利を収めています。これは相手が旧式戦車で、練度も低かったからです。現在も南アの周辺諸国に3.5世代戦車もなく、また高い脅威となる仮想敵国も存在しません。
翻って我が国ですが、90年代初頭にソ連が崩壊したので、90式戦車ですら必要なかったわけです。
実のところ、最盛期のソ連ですら日本への本格的な侵攻する能力はなく、そのような計画も存在しませんでした。そのソ連が崩壊したのであれば尚更です。周辺諸国も同様です。
ところが陸自は90式を量産、あまつさえ更に新型で、90式と大同小異の10式まで、開発して、その上に戦車定数削減のためか、「装輪戦車」である機動戦闘車も開発、量産しました。これに数千億円のコストが掛かっています。
ですが、防衛大綱にあるように、我が国に大規模な上陸作戦を行う仮想敵国は存在せず、主たる脅威はゲリラ、コマンドウであり、更に島嶼防衛、弾道弾による攻撃です。
そうであれば第3世代あるいは3.5世代の戦車は必要ありません。戦車の主たる任務は普通科の支援です。また一定の機甲戦闘能力の維持のための種火としての機甲戦力の維持です。
であれば、戦車はせいぜい150~200輌で十分で、旧式戦車の近代化でも宜しい。別にNATOの最新型戦車や機甲部隊と正面から闘うわけじゃありません。相手はゲリコマ、あるいは軽装備の水陸両用部隊です。
そうであれば105ミリ砲を搭載した「装輪戦車」も必要無し。せいぜい汎用装甲車に76~90ミリ砲を搭載したモデルで十分です。機動戦闘車の開発目的だって、対戦車ではなく、普通科の火力支援と、軽戦車までの対処です。
例えば74式のパワーパック、駆動系を一新し、装甲を強化し、センサーを一新しネットワーク化を施す。RWSを装備する。
90式、10式、16式MCV(機動戦闘車)に投入した数千億円、恐らくは7千億円ほどの予算があれば、70~90年代に導入した装甲車輌のリプレイスや近代化、ネットワーク化、特科のネットワーク化や、精密誘導砲弾の導入、普通科の近代化や、無線機の更新もできたはずです。
繰り返しますが、別に必ずしも高価な最新兵器が必要なわけでなく、環境や仮想敵に合わせた装備が必要です。
ですが、一部の新兵器がないと死ぬと騒ぐ、自称現実派の軍オタさんたちは、それが分かりません。通じなく、数が足りない無線、ネットワーク化もさらず、普通科の装備も劣悪、特科に精密誘導砲弾もなく、UAVやUGV.の導入は途上国よりも遅れている現状で戦車だけは最新型を導入すれば国防は安泰だと考えるのは軍事的に、かなり奇異な考え型です。
■本日の市ヶ谷の噂■
空自のKC767は長いこと空中で下げたブームが収納できず、着陸時に壊すために使用不能で、米国での演習では米空軍の給油機に給油をお願いしていたとの噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年8月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。