正しい呼吸法は病気になりにくい体をつくる

尾藤 克之

写真は氷漬けのヴィム・ホフ(本書表紙より)

「北極圏でショートパンツ一丁にサンダルでフルマラソン」「氷漬けになって1時間半、座り続ける」「氷山が浮かぶアイスランドの湖で泳ぐ」。これらは、すべて還暦間近の男がやり遂げたこと。彼の名は、ヴィム・ホフ。「ICEMAN(アイスマン)」として知られている。低温に耐える自然な能力をもち、褐色脂肪組織をより効率的に活性化させ、普通の人間より体温を高める能力が高いことが検証によって明らかになっている。

今回は、『ICEMAN病気にならない体のつくりかた』(サンマーク出版/著者:ヴィム・ホフ、コエン・デヨング、翻訳:小川彩子)を紹介したい。まず、ヴィム・ホフの最大の秘密は独自の呼吸法にある。17歳のときに呼吸法を体得して、無呼吸で5分から7分程度氷水に入れるようになった。ヴィム・ホフは正しい呼吸法が健康増進に効果があることを証明しているが、今回は、その一部を紹介したい。

ヴィム・ホフは、一卵性双生児で生まれた。カトリック教徒の家庭で9人兄弟で育ち、兄はドキュメンタリー映像作家となっている。初級実務学校に学び、12歳の時に、あらゆる種類の文化や言語への関心を抱くようになった。

ヴィム・ホフ・メソッドは効果があるのか

病気にも不調にも無縁の人が「よし、健康のために冷水シャワーを浴びよう!とは思わないだろう。それ以前に、病気のリスクにすら思い至らないかもしれない。そんな人にとっても、冷水シャワーを浴びたり肌寒い戸外で泳いだりすることは意義がある。気分をよくして活力をもたらすのだと、ヴィム・ホフは解説する。

「いまの仕事に不満がなくても、毎朝ベッドから飛び起きてワクワクしながら職場に向かう人は、そう多くありません。冷水シャワーは、そんな1日の始まりに最高です。昨日までとは明らかに異なる、エネルギーに満ちた自分の存在を発見できます。『コールド・トレーニング』は、あなたに活力をもたらします。長時間、座ったまま仕事を続けるような人ほど、その違いを実感できることでしょう。」(ヴィム・ホフ)

「多くの世界記録を更新し、オリンピックでも金メダルを獲得したオランダのスケート選手スベン・クラマーは、トレーニングを終えると氷風呂に入ります。野球のピッチャーは登板直後に肩を冷やすアイシングをしますが、どちらも炎症を抑え身体の回復を早めることが目的です。激しいトレーニングや過酷なレース直後のアスリートの筋肉には、身体を酷使した代償として乳酸などの代謝物が生成され体内に残っています。」(同)

トレーニングを再開し次のレースに臨むには、代謝物はできるだけ早く流してしまったほうがいい。氷風呂に入ることで老廃物を身体から除去する速度を上げる。氷風呂から出ると入浴前より血流が活発になる。つまり、すばやく代謝物が流れていくのである。

ぜんそくには効果があるように思える

実は、筆者は小児ぜんそくだった。小学校低学年の頃にマラソンや水泳教室に通うようになり完治したが、ぜんそくの苦しみはいまでも覚えている。本書で紹介されている、ラドバウド大学医療センター教授のフリッツ・ムスキーのコメントが興味深い。

「私たちは、つねに低レベルの感染症と暮らしています。慢性的に何かに感染しているのです。ただ非常に低レベルの感染なので実感がありません。じつはこれが多くの病気の培養地となっています。ヴィム・ホフのグループは私たちに、感染によって起きる炎症反応を抑制できることを示しました。」(フリッツ・ムスキー)

ヴィム・ホフの「ぜんそく向けエクササイズ」は、息を深く吸ってゆっくりと吐くこと。これらのエクササイズをしたあと、ほとんどの人は前よりも静かに呼吸するようになり、二酸化炭素レベルが正常に戻る。大きな違いは、エササイズ中に呼吸がコントロールされることだ。ぜんそくの呼吸では深く吸いすぎて呼吸をコントロールできないとしている。

実は、この解説は正しい。ぜんそく時は呼吸がしにくい(とくに息が吸いにくい)。筆者は、苦しいときには、息を深く吸ってゆっくりと吐くことを心がけていた。この呼吸法を30分ほど続ければ発作は治った。ある日、小児科外来で「腹式呼吸の変形版」であることを教わった。私にとっては明らかに効果のある呼吸法だったのである。

本書にはヴィム・ホフのメソッドとして、病気にならない体を手に入れた方法が紹介されている。エクササイズの簡単なやり方も興味深い。冷水シャワーに幸運あれ!

尾藤克之
コラムニスト