技能実習生制度の問題点を克服する:なぜ、失踪、犯罪が起こるのか

細野 豪志

技能実習生制度を巡っては、国際社会の厳しい目が注がれてきた。最も、具体的な指摘をしてきたのは、米国国務省の人身取引報告書だ。2016年まで繰り返されてきた指摘を引用する。

「日本は、強制労働および性的搾取の人身取引の被害者である男女、および性的搾取の人身取引の被害者である児童が送られる国であり、被害者の供給・通過国である。主にアジアから移住労働者は男女ともに、政府の技能実習制度を通じた一部の事案を含め、強制労働の状態に置かれている」

日本人としては、悪しざまに書かれすぎてはいないかと感じる部分もなくはないが、「借金による束縛、暴力または強制送還の脅迫、恐喝、パスポートの取り上げ、その他の精神的な威圧手段を用い、被害者の移動を厳しく制限する」といった具体的な指摘を受けると、否定できないところがある。2017年になって、「人身取引撲滅のための取り組みの強化」を評価する記述が登場するが、「技能実習制度における労働搾取を目的とする人身取引犯罪の可能性」についての言及が依然として存在している。

同種の指摘は、国連人種差別撤廃委員会の最終見解(2014年)や国連自由権規約委員会の最終見解(同年)などにも見られる。

労働力不足に悩むわが国は、技能実習生と留学生という裏口のルートを使って、年間20万人ペースで外国人労働者を増やしてきた。私自身は、わが国がすでに移民大国となっていること、移民を正面から認めるべきということだということを主張してきた。国際的な指摘を待つまでもなく、もはやごまかしは効かないということを我々政治家が肝に銘じるべきなのだ。

私は、特定技能が定着すると、やがては技能実習生制度そのものが発展的に解消する可能性があると見ている。まずは、特定技能を導入するにあたって、技能実習生制度で指摘されてきた問題点を克服しなければならない。

失踪と犯罪が発生する理由

ベトナム人の技能実習生を巡って、ここ数年、問題になっているのが失踪と犯罪の増加だ。他の国でも同様の問題が存在しており、実習生が急増したベトナムで顕在化したものだ。

2017年のベトナム人技能実習生の失踪者の数は3751人、刑法犯検挙人員は398人と、共に急増している。昨年は、70人をチャーター便でベトナムに強制送還したとのことだった。ベトナム人の場合、凶悪犯はまれで、万引きなどが多数を占めるため、国民感情が悪化するには至っていないが、すでに現状を放置するのは危険な水域に入っている。逆もまたしかりだ。日本社会に適応できずに失踪や犯罪に走るベトナム人の日本への感情も良いはずがない。

失踪やすらぎ犯罪の原因の一つに借金の問題がある。従来、ベトナムでは、150万円程度の資金がなければ技能実習生になることができなった。親類縁者から金をかき集めるため、より高い給与を求めて失踪する実習生が後を絶たず、犯罪に手を染めるケースも出てくる。遅きに失した感があるが、研修生の借金の問題にベトナム政府が取り組みだした。ベトナム国内で送り出し機関が実習生から徴収することができる費用(研修費、宿泊費など)の上限を4800ドル(60万円ほど)に設定したのだ。

ハノイには、送り出し機関が軒を連ねている通りがある。ベトナム政府の取り組みもあり、300近くあった送り出しは245まで減少したが、今でも様々な名目で実習生に過度な負担を求める機関が存在する。悪徳機関の排除は一義的にベトナム政府の責任だが、行政機関そのものの腐敗を指摘する声をたびたび耳にした。私が訪れた送り出し機関の中には、これまで一人の失踪者も出していない機関もあった。日本の政府として、失踪率が高い悪徳機関を特定し、その機関からの実習生を認めないぐらいの対応をするべきだろう。

日本の受け入れ機関にも、送り出し機関にデポジットを要求するなど悪質なところが存在しているという指摘もあった。それらは、回りまわって研修生の負担となる。わが国も、現状についても調査し、悪質な受け入れ機関があれば許可を取り消すべきだ。

わが国に合法的に入ってくる外国人の人権は、参政権などは例外として、最大限、尊重されるべきだ。一方で、法を犯すものに対しては、厳しく対応することが求められる。

昨年度の不法就労者は9,134人。農業従事者が1,585人と最も多く,次が建設作業者の1,529人となっている。不法就労者のほとんどが、罰金などの刑罰を受けずに強制送還されている状況から、やり得になっている面もある。取り締まりや罰則の適用を厳格に行うことはもちろんだが、現在は我が国政府が負担している強制送還に係る費用について、ベトナム政府が負担し、送還後にベトナム国内で徴収するなど、両国政府が連携して対応する必要がある。

外国人だから低賃金は通用しない

失踪や犯罪が発生する背景に、技能実習生の給与水準がある。月に15万円はもらえると聞いて日本に渡ったが、実際は6万円ほどしか手にできず、母親に泣きながら電話してきたといった話をあちこちで耳にした。前にも指摘したが、技能実習の現実は出稼ぎだ。希望した報酬が得られないことは、彼らにとって極めて深刻な事態なのだ。

特に、天候によって仕事に出られなくなる建設業や農業の場合、日当、もしくは時給というケースがあり、安定的な収入が得にくい。日本人労働者も同じだという指摘も出てきそうだが、技能実習生は日本人と違って転職は認められていないので、薄給に甘んじるしかない。

この二業種は、特定技能での在留資格でも認められる見込みだ。特定技能においては、業種内での転職や兼職も認められるので、外国人の選択の余地があるが、業種の性格を考えると、政府も業界も、彼らの就労環境を安定的なものする努力をするべきだろう。

特定技能で認められる職種は、これまで認められてきた高度人材と比較すると、給与水準が低い。給与を含めた労働環境が悪ければ、働くことが認められていない業種も含め、転職を希望するケースが格段に増えるだろう。大量の失踪者が誕生してから対応するのでは遅い。まずは、我々が「安い給与で働くから外国人」という発想から抜け出さなければならない。

次回は、人として配慮すべき点について、やや踏み込んで私見を述べる。


編集部より:この記事は、衆議院議員の細野豪志氏(静岡5区、無所属)のオフィシャルブログ 2018年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は細野豪志オフィシャルブログをご覧ください。