営業マンは売らずに「価値を伝えるべき」の価値ってなに?

尾藤 克之

写真は講演中の樺沢医師(本人許可により使用)

「自分の意見がうまく伝えられない」「交渉や営業が苦手」「いいアイデアが浮かばない」「仕事に関する勉強をしているのに、成果が出ない」。実は、これらの悩みの共通点は、「アウトプット」の仕方に問題があること。いくら本を読んでも、講座を受講しても、アウトプットの方法を間違えていると、自己成長は難しい。

今回は、『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版)を紹介したい。著者は精神科医の樺沢紫苑医師。雑誌、新聞などの取材やメディア出演も多い。脳科学に裏付けられた、書き方、伝え方、動き方とはどのようなものか。発売1週間で37000部を突破した話題の1冊。独自の経験をもとに確立した理論は大変ユニークだった。

価値を提供しなければ絶対に売れない

「営業マンは売り込んではダメだ。価値を伝えるべきだ!」と、営業部長が活を入れている。週末実施した、営業マン研修で習ったトークに間違いない。そんな時には、次のように言い返してもらいたい。「価値を伝えるべき」の「価値」ってなんですかと。

「ほとんどの日本人は、『人に物を売る』ということが苦手です。あるいは、マイナス意識を持っています。『お金は卑しいもの』という考えに支配されている人が非常に多いのです。営業とは、『商品を強引に売りつけること』ではありません。営業とは、その商品が持つ『本当の価値』『本当の素晴らしさ』『本当の魅力』を正しく伝えることです。結果としてクライアントの購入意欲が上がり、購入に至るのです。」(樺沢医師)

「正しく営業すると、『売り込む』必要も、『売りつける』必要も、まったくないのです。』『売る』ことが目的なのではなく、『価値を紹介する』ことが目的だと考えると、『営業はネガティブな職業』というイメージは払拭されるはずです。」(同)

樺沢医師は、本書をどのように告知したのだろうか。自分のメルマガやFacebooKで紹介しているが、たった7項目の紹介文である。営業や告知が下手な人は、「買ってください」を連呼する。お客さまは、「価値があるもの」は買いたいが、「価値のないもの」は買いたくない。だから、価値を提供せずに何回訪問しても売れることはない。

「商品を売りたければすることはたったひとつ。『価値を伝える』ことなのです。商品の本当の価値を紹介すること。言い換えると、『ベネフィット』を紹介することです。『ベネフィット』とは、『利益』です。その商品を購入すると、クライアントに、どのようなメリット、利益、得があるのか。その点をしっかりと説明しましょう。」(樺沢医師)

ベネフィットとはいったい何者か?

今回は、ベネフィットをテーマにしている。抽象的にならないよう事例を紹介したい。筆者が30歳のとき、あるメーカーの新卒採用コンペにエントリーした。案件は入社案内の作成でエントリーしたのは10社。大手採用サービス会社や広告代理店、PR会社などがオリエンテーションに参加していた。準備期間として2週間の猶予が与えられた。

コンペ当日、筆者以外の会社はオールカラーのデザインカンプを用意してきた。フルカンプを用意する会社、プレゼンボードに貼りキレイに整えた会社、ページ数と紙質なら負けないとまるで写真集のようなカンプを提出する会社もあった。筆者と組んで提案した会社は、デザインカンプを一切用意せず、手書きのサムネールを用意した。

その代わり、人事部長と社長のあいさつ文を数パターン用意した。さらに、提案にいたった経緯をA4用紙1枚にまとめた。筆者が考えたベネフィットは次のようなものだった。同社の置かれた環境を踏まえてポイントは3つだと考えた。
(1)同社は前年度に合併して誕生した会社だったこと。
(2)経営理念に関しては合併後の様子を見ながらすり合わせる予定だったこと。
(3)つまり、経営理念はおろか採用理念も一切存在しなかったこと。

そのうえで、いま必要なベネフィットは、3つだと解説した。
(1)ゴージャスで写真集のような入社案内は不要であり単なるムダである。
(2)必要なことは学生に伝えるメッセージである。つまり採用理念である。
(3)採用理念(仮説)を提示。採用活動終了後に社内の意見を集約し反映させること。

プレゼンは完璧、ほぼ即決だった。手前味噌だが筆者のとっても会心の一撃だった。さらに、業務委託契約にあたり、指示命令系統を筆者側に一任することで許諾をもらった。なんらかの業務を発注された全ての会社は、若造(筆者)の指示命令系統に置かれたのである。ある大手採用サービス会社の役員以下数名が、メーカーに乗り込んできた。

「いままでの信頼関係が壊れますよ!」「これはルール違反だ!」。筆者は早めに呼ばれていたので人事部長の横に座って先方を待っていた。あとから、法務担当(弁護士)が横に着席した。先方は、私の対面に座っている。紅潮し唇が震えていた。冒頭から、「筆者(尾藤)に従わないなら取引は中止します」と、会議は10分で終了した。

樺沢医師が独自のアウトプット理論を確立したのは40歳を過ぎてからになる。学びに年齢は関係ない。結果が出る「アウトプット術」。この機会にお試しいただきたい。

尾藤克之
コラムニスト