トルコリラが急落した背景

久保田 博幸

演説で、米国による制裁に屈しない姿勢を示すエルドアン大統領(トルコ大統領府公式写真より:編集部)

トルコの通貨、トルコリラがここにきてさらに下げ足を速めてきている。対円では今年初めに30円台にあったのが、一時15円台にまで急落した。対ドルでも1ドル7.2リラ台に急落し、最安値を更新した。

トルコリラの下落が世界の金融市場のリスク要因としてあらためて認識されたのは、英紙フィナンシャルタイムズ(FT)が10日に、ECBが欧州の銀行のトルコ向け債権に対する懸念を強めていると報じたことがきっかけとなった。

伊国のBBVA、ウニクレディト、フランスのBNPパリバを特に注視しているという。これらの銀行はトルコで積極的に事業を展開しているとされている(ロイターの報道より)。

トルコリラの下落が、欧州やトルコの銀行にとってリスク要因となりそうな水準に下落したことで、世界の金融市場における懸念材料となった。ここからさらにトルコリラは下落するのかどうかがひとつの焦点になっていたが、そんな矢先に米国のトランプ大統領が火に油を注いだ。

米国とトルコの両国関係は米国人牧師アンドリュー・ブランソン氏の拘束を巡り悪化している。ブランソン氏は2016年のクーデター未遂事件を起こした反政府勢力を支援した罪に問われており、7月下旬に自宅軟禁に移されるまで約20か月にわたり収監されていた。

トルコのエルドアン大統領は12日、同国で拘束されている米国人牧師について、米国が解放の期限を8日に設定していたことを明らかにした(ロイター)。

エルドアン大統領は「テロ組織とつながりのある牧師と引き換えに8100万人のトルコを犠牲にするのか」とも発言し、トランプ大統領の対決色を強めたことによって、大西洋条約機構の加盟国同士の対立で欧州の安全保障にも懸念が出てきた。

このタイミングでトランプ大統領は、トルコ製の鉄鋼とアルミニウムに賦課する関税率を倍に引き上げると発表した。これについてトランプ大統領は、トルコとの関係悪化とともに、トルコの通貨リラが対ドルで急落したことを理由にしてしていた。

これに対してトルコのエルドアン大統領は自国民に「手持ちのドル、ユーロ、金をリラに転換せよ」と呼びかけた。通貨リラの相場安定のため不可欠とされる中央銀行による政策金利の引き上げに否定的な考えを示したことで、これが一段のリラ売りにつながったとみられる。

トルコリラの下落が、欧州やトルコの金融機関のリスクを増加させるとともに、その背景にあったトルコと米国の関係悪化がさらにトルコリラ売りを招くなど、今回の混乱は簡単に収まりそうもない。これが世界の金融市場にとって大きなリスク要因となってきたのである。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年8月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。